上 下
263 / 443
とある男の転換期

261

しおりを挟む
 急かされる様に呼び出されて、何事かと王妃の執務室に飛び込んできた宰相フィリップス・ガルシアに、商業ギルドのギルドマスターであるヘンドラーは再び説明をする事になった。

 難しい顔で聞いていたフィリップスも金融機関の有用性が理解できたのか、賛成の声を上げてくれた。

「あとは、陛下に打診して認めて頂ける様に書簡として纏めましょう。
 ヘンドラー。
 その金融機関だが、どうせなら一般市民向けにも活用できないだろうか?
 商会や貴族は構わないが、一般市民とて金貨を守る事に苦心していると思うのだ。」

 フィリックスの言いたい事は理解できた。
 しかしそうなれば、いよいよ大事業となる。
 
 見守っていたリリィが楽しそうに手を上げた。

「はいっ!
 もし、もしもよ。
 帝都で、この金融機関なる物が上手に稼働出来たら、他の領にも作ってもらいましょう。
 そして、情報を連結する事で旅人や・・・そうね・・商会の旅団などが今よりもお金を持たずに旅ができるでしょう?
 盗賊に襲われる心配も減るわね。」

 はたまた、リリィはとんでもない事を言い出した。
 自分の思い付きが、こんなにも重大な国策になっていくとはヘンドリーも思っていなかった。
 顔を青褪めるヘンドラーを見て苦笑したのは冒険者ギルドのギルドマスターとなったガク・ブランチ前辺境伯だった。

「これこれ、御2人共急いではならん。
 まずは、冒険者ギルドで試すとしよう。
 より有効だと証明できれば帝都全体で活用する道を模索すればよい。
 そして、その後に帝国中に広めていきましょう。
 人とは大きな変化に順応できる者とできない者がいる。
 互いの考えの違いから齟齬が生まれ問題が発生し、争い事に繋がるのだ。
 焦ってはならんよ。」

 卓越した老人の言葉に納得したリリィとフィリックスが頷いた事でヘンドラーはドッと汗を掻きながらも安堵した。

「では、冒険者ギルドでの金貨の取り扱いについての計画を陛下のお耳に入れてきます。
 恐らく、早く許可が降りる事でしょう。」

 準備しとけよ。

 あたかもそう言って部屋を出て行ったフィリックスを見送ると、ガク翁はケラケラと笑った。

「若い者は気がせいて危なっかしい。
 人生は長いのだ。
 物事には仕込みが大事とお忘れなさるな。」

 助言めいたガク翁にリリィはクスクス笑いながら頷いた。

「それで、もう1つの問題ね。
 冒険者の宿泊施設だったかしら?
 そちらも早急に進めた方が良いわね。」

 金融機関の話は一度帝国に預けて、自分達は出来る事をしようと口にしたリリィに頷くとヘンドラーは冒険者ギルド近くの土地を提示した。

「元々、貴族様のお屋敷でしたが先の粛清の折に没収され競売で安く売られていた土地です。
 今は、ほぼ更地となってますので一から立て直す必要がありますが、立地は冒険者ギルドからも近いのです。」

 リリィが帝都の地図を引っ張り出すとヘンドラーは件の土地を指差した。

「なるほど・・・メイン道路から外れているわね。」

「しかし、武器屋や防具屋や近く、これから冒険者に連なる店や工房が益々発展してくるエリアとなるでしょう。
 彼らの仕事には利便性が高いと思います。」

「貴方は賢い人ね。
 いいわ。その場所にしましょう。」

 うんうんと頷いたリリィはヘンドラーにニッコリと微笑んだ。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎    2024年8月6日より配信開始  コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。 ⭐︎書籍化決定⭐︎  第1巻:2023年12月〜  第2巻:2024年5月〜  番外編を新たに投稿しております。  そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。  書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。    改稿を入れて読みやすくなっております。  可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。  書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。 いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。 山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。 初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15をつけました ※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。  作品としての変更はございませんが、修正がございます。  ご了承ください。 ※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。  依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...