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とある男の転換期

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 急かされる様に呼び出されて、何事かと王妃の執務室に飛び込んできた宰相フィリップス・ガルシアに、商業ギルドのギルドマスターであるヘンドラーは再び説明をする事になった。

 難しい顔で聞いていたフィリップスも金融機関の有用性が理解できたのか、賛成の声を上げてくれた。

「あとは、陛下に打診して認めて頂ける様に書簡として纏めましょう。
 ヘンドラー。
 その金融機関だが、どうせなら一般市民向けにも活用できないだろうか?
 商会や貴族は構わないが、一般市民とて金貨を守る事に苦心していると思うのだ。」

 フィリックスの言いたい事は理解できた。
 しかしそうなれば、いよいよ大事業となる。
 
 見守っていたリリィが楽しそうに手を上げた。

「はいっ!
 もし、もしもよ。
 帝都で、この金融機関なる物が上手に稼働出来たら、他の領にも作ってもらいましょう。
 そして、情報を連結する事で旅人や・・・そうね・・商会の旅団などが今よりもお金を持たずに旅ができるでしょう?
 盗賊に襲われる心配も減るわね。」

 はたまた、リリィはとんでもない事を言い出した。
 自分の思い付きが、こんなにも重大な国策になっていくとはヘンドリーも思っていなかった。
 顔を青褪めるヘンドラーを見て苦笑したのは冒険者ギルドのギルドマスターとなったガク・ブランチ前辺境伯だった。

「これこれ、御2人共急いではならん。
 まずは、冒険者ギルドで試すとしよう。
 より有効だと証明できれば帝都全体で活用する道を模索すればよい。
 そして、その後に帝国中に広めていきましょう。
 人とは大きな変化に順応できる者とできない者がいる。
 互いの考えの違いから齟齬が生まれ問題が発生し、争い事に繋がるのだ。
 焦ってはならんよ。」

 卓越した老人の言葉に納得したリリィとフィリックスが頷いた事でヘンドラーはドッと汗を掻きながらも安堵した。

「では、冒険者ギルドでの金貨の取り扱いについての計画を陛下のお耳に入れてきます。
 恐らく、早く許可が降りる事でしょう。」

 準備しとけよ。

 あたかもそう言って部屋を出て行ったフィリックスを見送ると、ガク翁はケラケラと笑った。

「若い者は気がせいて危なっかしい。
 人生は長いのだ。
 物事には仕込みが大事とお忘れなさるな。」

 助言めいたガク翁にリリィはクスクス笑いながら頷いた。

「それで、もう1つの問題ね。
 冒険者の宿泊施設だったかしら?
 そちらも早急に進めた方が良いわね。」

 金融機関の話は一度帝国に預けて、自分達は出来る事をしようと口にしたリリィに頷くとヘンドラーは冒険者ギルド近くの土地を提示した。

「元々、貴族様のお屋敷でしたが先の粛清の折に没収され競売で安く売られていた土地です。
 今は、ほぼ更地となってますので一から立て直す必要がありますが、立地は冒険者ギルドからも近いのです。」

 リリィが帝都の地図を引っ張り出すとヘンドラーは件の土地を指差した。

「なるほど・・・メイン道路から外れているわね。」

「しかし、武器屋や防具屋や近く、これから冒険者に連なる店や工房が益々発展してくるエリアとなるでしょう。
 彼らの仕事には利便性が高いと思います。」

「貴方は賢い人ね。
 いいわ。その場所にしましょう。」

 うんうんと頷いたリリィはヘンドラーにニッコリと微笑んだ。
 
 
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