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とある男の転換期

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「姫様、来ましたぞ。」

 大きなテーブルを覗き込んでいたリリィにガク・ブランチが声をかけた。

「あらあら、ガク爺様。
 ごきげんよう。
 今日はお友達も一緒なのね。」

 楽しげに笑うリリィにヘンドラーは思わず跪いた。

「こちらは商業ギルドのギルドマスターを任されたヘンドラーです。
 本日は姫様に聞いて欲しい話があって共に参りました。」

 汗が背筋に垂れている事にも気づかずにヘンドラーは顔面蒼白だ。

「ヘンドラー。
 ごきげんよう。
 貴方の事はポリティス伯爵から聞き及んでいます。
 難しい舵取りをお願いして申し訳ないわ。
 困った事があったら、いつでもいらっしゃいな。」

 気さくな龍の姫巫女に噂のような神々しくて付き合い辛いなどの印象はない。
 緊張して上げる頭も重く感じるヘンドラーであったが意を決して、その美しい顔を視界に入れた。

「ヘンドラーに御座います。
 商業ギルドを預かる身として粉骨砕身に励みます。
 どうぞ、宜しくお願い申し上げます。」

 すると龍の姫巫女・リリィはニコっと微笑んだ。

「良い目を持っているわ。
 ポリティス伯爵の人を見極める力には恐れ入るわね。」

 それには同意するように頷いたガク翁がリリィのテーブルに近づいた。

「ところで姫様は何をしておいでだったのですかな?」

「これ?フフフ。
 先日陛下が、とても素晴らしい土地を巻き上げ・・・コホンっ。
 正当に買い上げて下されたのです。
 その土地の跡地をフードコートに利用しようと思っていたのですが、全て素晴らしい建物でしょう?
 壊すよりも利用出来ないかと考えていたのですよ。」

 聞いていたヘンドラーは先日のダチェット侯爵と取り巻きの商人の話だと思い当たった。
 リリィが手掛けたマーケットやハンターギルドのおかげで、軒並み経営が落ち込んだ商会があったという。

 元々が悪どい方法での商売を繰り返し、ハンターや農家、そして職人などを無理やりな囲い込みしていた方法はヘンドラーも大反対だった。

 リリィの思惑に引っかかり現在を迎えた彼らも結局は土地を手放す事にしたらしい。
 最後まで抵抗していたダチェット侯爵も、愛人を囲っていたやら市民から贅をむしり取っていると、貴族社会で悪評が悪評を呼びタウンハウスを皇帝陛下に売りに出したようだ。

 かつての主人であるシモン・ポリティス伯爵よりフードコートの事も耳に入っていたヘンドラーもリリィの許可を得てからテーブルに近づくと目を見張った。
 
 そこには模型で造られた街の一部が再現されていたのだ。

「今回手に入れたのは帝都の街中でも建物が密集した地域でしょう。
 タウンハウスや商会の建物がピッチリと隣り合わせに建てられているのよ。
 しかも外見は高位貴族や大手の商会が所有していただけあって立派でしょ。
 これを全部壊すのは勿体無いと思って・・・。」

「どうなさるのです?」

 見事な出来の街の模型に目を凝らしていたヘンドラーが思わず問いかけた。
 すると、リリィがニッコリと笑って小首を傾げた。

「ん~。
 壁をブチ抜いてくっ付けちゃおっか。」

 それは、あまりに突飛な考えで聞いていた者達の口をあんぐりと開けさせたのだった。
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