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とある男の転換期

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 それから暫くして、ハンターギルドと対をなす商業ギルドが出来上がった。

 ギルドマスターにはシオン・ポリティス伯爵が信頼するベテランの家令であったヘンドラーと言う名の男が任命された。

 ポリティス伯爵とは辛い時期を耐え抜いた家臣の1人であり、商売や金融に長けた男だった。
 ポリティス伯爵家を辞する事になり寂しさあれど、これからも主人と共に働けるとあって喜んで商業ギルドを預かる決意をした。

 ヘンドラーはポリティス伯爵を経由して当初からリリィの計画を耳にしていた。

 安価な商売と高価な商売・・・。
 ヘンドラーは当初、貧民と金持ちの格差を広げる政策ではないかと心配した。
 棲み分けをしてしまえば、己の生きやすい場所で人は生きてしまう。

 ハンターギルドの存在によって学がなく機会に恵まれてこなかった者達も多少は稼げる様になる。
 市民は生きていく事に精一杯で安価で食べ物にありつけるとあれば自ずと犯罪も減っていく事だろう。
 
 今はそれで良い・・・今は。
 しかし、それが浸透すれば今度は格差を無くしていく事も考える。
 それが、国の運営に従事する者の勤めであるとヘンドラーは決意した。

 裏路地に捨てられた人間も丸っと全てを利用し使いこなす。

 龍の姫巫女リリィの言い草は実に乱暴であるが、国を憂う彼女の優しさである事は十分に理解できた。

 野菜やパンなどの食品加工、裁縫、大工などの工業、リリィの思い付きは全てを叶えてみせる。

 それこそが、主人であったポリティス伯爵への恩に報いる方法であるとヘンドリーは強い想いを持っていた。

「ヘンドリーさんや。
 ちと頼みがあるのだがな。」

 そんなある日にやってきたのはハンターギルドのギルドマスターであるガク・ブランチである。

「これは辺境伯様。」

 慌てて立ち上がるヘンドリーにガク翁はカッカッカッと笑った。

「ワシは既に辺境伯を息子に譲っておる。
 それに互いに責任ある立場。
 そう畏まっては守れるモノも守れなくなるぞ。」

「有難う御座います。
 以後、気を付けます。
 それで、今日の赴きは如何しました?
 先程、頼みと伺いましたが?」

 勧められたソファーに座るとガク翁は伸びた髭を撫で付けるように摩った。

「うむ。
 実はな。
 ハンター達の事なのだが、失念していた事がある。」

「はい。」

「奴等の多くは商会に雇われていたり、逆に住処が無かった者も多い。」

「成程・・・彼らの住居が無いのですね?」

 それは確かに失念だとヘンドラーは顔を顰めた。

「元々、金のある者達は賃貸で部屋を借りている様だが、そうでない者は再び路地裏に戻っているのだ。
 まだ、訓練中で大して稼げなくとも日々日当は渡してある。
 しかし、奴等め本格的に活動できる時に武器や防具に利用する為に貯めているのだ。」

「・・・成程。
 それは危険ですね。」

 ガク翁が齎した危機感がロンサンティエ帝国に新たな変化を産み出そうとしていた。
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