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とある男の転換期

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 シオン・ポリティス伯爵は既に寛いでいるディミトリオ・ハクヤに手短に挨拶すると、リリィに持っていた書類を手渡した。

「マーケットの収支についての報告書です。
 先程、陛下にも同じ物を提出して参りました。」

 ポリティス伯爵が現れると、ディミトリオ・ハクヤの侍従であるクレイが場所を譲り席に案内した。
 ミニキッチンではリリィの侍女であるジュディが手早く紅茶の準備をしているのが見える。

「・・・うん。悪くなさそうね。」

「それどころか、順調すぎて怖いくらいですよ。」

 冷静なポリティス伯爵にディミトリオ・ハクヤも苦笑している。

「マーケットの評判が良いと言う事は、これまで商人共が庶民を相手にして来なかったかと証明された様なものだ。
 金は天下の回りものだったか?
 商人同士だけの儲け話・・・これでは経済など発展しないはずだ。」

 最初から計画を聞いていたディミトリオ・ハクヤも、こんなにも早く結果が出るとは思っていなかった。
 リリィへの信頼は高いが、“龍王島”という閉鎖的な場所で生きてきたにも関わらない彼女の視野の広さに驚かされるばかりである。

「今は、悪徳商会からの需要供給を止めて強引に利益を奪い取っているに過ぎないのよ。
 これからは、もっと今の仕組みを安定させて自由に商売できる環境を与えるべきだわ。
 やれる事はまだまだ沢山あるのよ。」

「例えば?」

 愉しげに問いかけるディミトリオ・ハクヤに加えてポリティス伯爵も興味深そうだ。

「貧富の差というのは貴族と市民の間だけの問題ではないわ。
 貴族間の中でも生まれているはず。
 資金に余裕があり子供達の教育にお金の掛けられる家と、そうでない家があるはずよ。
 貴族の子供達には学園に通う義務があると事は分かっているけれど、入学する時には既に能力の差が生まれているのが現状ではない?」

 それはリリィよりも学園に通っていた経験のある彼等こそ理解している事だった。

「そんな彼等、彼女達こそ未来の帝国の下支えをしてくれる重要な人材なのよ。
 皆が成長し高め合えた方が帝国の為になるわ。」

 そしてリリィは金銭面に余裕のない貴族、特に下級貴族の家に教育者を派遣する事を提案した。

「騎士を志す者には、ハンターギルドと同じく引退した騎士を募って派遣するわ。
 高度なマナー教育を必要とする令嬢達にはカヴァネス・・・貴族の未亡人達を家庭教師として送りましょう。」

 専門の教育を提案したのは、勉学は家の者が教えている事が多いと聞いたからだ。
 しかし剣術やマナー教育などは長けた者に任せた方が良い。

「その全てのサービスを無料で提供するのですか?」

 流石のポリティス伯爵が心配そうに顔を顰めると、リリィは首を横に振った。

「こちらは安価でも一定額を頂きましょう。
 そして、全てのサービスを短期集中で教えてさせるのです。」

「様々な家を周り数をこなすという事が出来ますね。
 生徒達には教育の機会を与え、学園までの時間を己で鍛えさせる・・・という事ですね?」

 リリィは甘えてくる白銀の龍ルーチェを撫でると微笑んだ。

「私が与えるのは、あくまでもチャンスですよ。
 何にせよ。己が努力をせねば能力など無意味です。
 市民だろうと貴族だろうと関係なく私は未来に投資します。」

 未来への投資、帝国の底上げ・・・リリィの考える教育に男達の興味が尽きない。
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