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とある男の転換期

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「ハンターギルドは順調に人を集めているようです。
 最初から仕事ができる者は数少ないですが、市民の能力の底上げと考えれば焦りは禁物かと思います。」

 シモン・ポリティスの報告にリリィはニッコリとした。

「商会の動きはどうですか?」

 ポリティス伯爵は抗戦的なリリィに苦笑した。

「雇っていたハンター達をギルドに差し向け騒ぎを起こそうとしている様ですが、ガク爺様が上手く対処している様です。
 商会に雇われているままと、ギルドに所属し一旗上げるのとどちらが良い?と煽っている様です。
 中には、ポロポロとハンター達が離脱していく商会も現れ始めたとか。」

 それを聞いたリリィは楽しそうにクスクスと笑った。
 そこにポリティス伯爵が思わぬ事を言った。

「私も自分で雇っていたハンター達を全員、ギルドに加盟させる事にしました。
皆、納得しています。」

「それは・・・思い切りましたね。」

 ポリティス伯爵が手駒を手放すとは思っていなかったリリィは流石に驚いた。

「毒を喰らわば皿まで・・・。
 私はリリィ様の見据える未来が楽しみでしょうがないのです。
それに・・・。」

「それに?」

「ハンターを放逐した事で、コストが下がりました。
 依頼料の方が給料や食い扶持、遠征費を加えた価格より安く済むんですよ。」

 抜かりないポリティス伯爵に、今度こそリリィは楽しそうに笑い出した。

「アハハハ!
 そうなのよね。
 他の商会達は、そこに気づかないのかしら?
 商売の才能ないんじゃない?」

 リリィはポリティス伯爵が気が合った事に満足していた。
 紹介してくれたファヴィリエ・ルカにも感謝である。

 今日の夕食の際には良い報告が出来そうだと、リリィの機嫌は良くなった。

 するとポリティス伯爵が神妙な顔をしだした。

「ハンターギルドの運営は始まったばかりです。
 困難もあるでしょうが、ある程度の形が作られました。
 しかし、中にはハンターが出来ない者も多くいます。」

 それはリリィも理解していた。
 市場改革の最初にハンターギルドを選んだのは、悪徳商会から原材料を奪う算段があったからだった。

「次の1手ね。
 実は、構想はあるの。
 ハンターギルドとは別に職業訓練所を作ろうと思っているの。」

ーーー職業訓練所。

 これも侍従や侍女の教育機関やハンターの育成機関と同じ仕組みだった。

 様々な職業の訓練の場を設け、手に職がない者、安い賃金で奴隷のように働かされていた者の自立を目指すのだ。

「商会は、商会内であるだけのお金を回しているわ。
 しかし、金は天下の回りものってね。
 国中でお金の流通を促す事で、経済が回っていくのよ。」

「初めて聞く言葉です。」

「えぇ、私も教えを受けたに過ぎないの。
 貨幣が今よりも流通すればする程に、巡り巡って自分に戻ってくる。
 儲けが帰ってくるって言葉らしいわ。
 職業訓練を受ける人達にもハンターと同じように文字や計算を教えるわ。
 これぞと投資をしても良いと思える商会が育てば素晴らしいじゃない。」

 リリィが言い出した新たな事業にポリティス伯爵は関心しながらも、凄い人間の元に来てしまったと苦笑するのだった。

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