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とある男の転換期

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 王都の街でハンターギルドが話題になる少し前、リリィは1人の老人と相対していた。

「と言うわけで、ガク爺様にハンターギルドのマスターになって頂きたいの。」

 リリィは老人・・・辺境伯の地位を息子に譲り王都に移り住んだ老貴族に願い事をした。

「加えて言うのなら、ガク爺様には私達が机上の空論で話し合った事業が上手くいくのか教授願いたいわ。」

 静かに話を聞いていたガク・ブランチは楽しそうにリリィに頷いた。

「姫様からの申し出、喜んでお引き受けしましょう。
 確かに考えを詰めねばならぬ事が多い様ですな。」

 ガク・ブランチが引き受けてくれてリリィは大喜びだった。
 そのガク・ブランチは敬愛する龍の姫巫女が新しく始める企み事に興味が尽きない。
 それでも、言っておかねばならぬとばかりに真面目な顔をした。

「姫様。悪徳商会を衰退させる為とはいえ、我らは仕事を求める者達に真摯に向き合う必要があります。
 金は豊になる為の道具であり、仕事とは金を集める手段の1つです。
 手段を与えられた者達は生きる為に必死になって励む事でしょう。
 ならば、我らも腰を据えて彼らと対峙せねばなりません。」

 けして、これは唯の人助けじゃない。
 帝国の金融市場に混乱を齎す大いなる事業でもある。
 それに巻き込まれるハンター達を守るのも、運営をする者の役目であった。

「戦闘訓練は騎士を引退をした者を雇用しましょう。
 年を取ったり、怪我で騎士が出来なくなった者も職を求めていますし、教える分には丁度良い筈です。」

 ガク爺の提案にリリィは納得して頷いた。

「ハンターとしての狩りの方法はブランチからも人手を寄越させましょう。
 辺境の地の荒苦しい魔獣は我らの方が長けていますからな。」

 文字や計算は引退した文官などに声を掛ける事にした。
 旧政権時に無理やり辞めさせられた職員の多くは王宮に戻りつつあるが、それでも全てが職にありつけているわけではない。
 一流の仕事をしてきた彼らに文字や計算を教える仕事は物足りないかもしれないが、人となりを見てギルドの運営側に引き込んでも良いだろうと2人は話し合った。

 すると、ガク爺は徐にリリィの後に立っていたコテツとアリスに声を掛けた。

「お前達、ギルドが出来上がったら建物の前で一芝居売ってこい。
 住人達はギルドなど知らん。
 尻を叩いて来い。」

 コテツとアリスが嫌そうな顔をしているのをガク爺は澄ました顔でニヤニヤとした。

「・・・クソジジィが。」

「シッ。
 他にも用事を押し付けられるわよ。
 ギルドマスターになれば、仕事があるわけだから、毎日王宮に来る事もないわよ。」

「・・・なるほどな。ヨシっ。」

 何だか気持ちの落とし所ができた様な2人にリリィは眉を下げて笑うしかないのであった。
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