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龍の姫巫女の嗜み
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皇妃の執務室が完成して暫く、皇帝の執務室の改装も終わりを見せた。
ものづくりの熱が冷めない内にと、手を加える作業に勤しんでいたリリィは皇帝の執務室に出入りする王宮勤めの者達に不思議そうな視線を送られていた。
廊下と皇帝の執務室の間に応接室を作り上げた時には、訪れてきた文官が驚いたようにキョロキョロとしていた。
昨日までなかった部屋が出来ていたのだ。
驚くのも無理はない。
応接室を作る際に皇帝の執務室が少し狭くなったが「元々、無駄に広かったから問題ない。」とファヴィリエ・ルカは出来上がりに満足そうに笑った。
彼が何よりも喜んだのは、執務室の奥に新たに取り付けられた扉である。
離宮“百合の宮”へ直接通じる扉のお陰で、毎日の様に通う事が出来し、婚姻が正式なものとなればファヴィリエ・ルカとリリィの私室としての役目が離宮にはある。
何が良いって、廊下を歩いている時に無駄に話しかけられる事がない。
リリィに会いたい者が付いてこようとする事もあるし、散々脅したにも関わらず、奇跡を求めた貴族令嬢や侍女が目にチラつく事もある。
ファヴィリエ・ルカにとって、王宮は決して落ち着く場所ではない。
それでも、離宮“百合の宮”でリリィが待っていると思えば、毎日が楽しかった。
現に、扉が出来上がった日から毎日の様に食事を共にしているのだ。
もはや、重荷を背負う彼にとっても離宮は落ち着く場所となっている。
結婚まで半年、リリィは着実に王宮と後宮を変えていた。
緑龍・ジンの話によれば、リリィの行動は龍で言う縄張りの確保と主張なのだそうだ。
王宮で働く者達の話によれば、以前よりも働きやすく、雰囲気も良いらしい。
龍の姫巫女が与えるのは龍気といった力技だけでない。
王宮のひいては帝国の空気を変えてしまう。
それこそが、龍の姫巫女という存在なのだ。
新しく出来上がった扉が、いつ開くとも分からない期待に膨れながら執務をこなす毎日だった。
コンコンコン
応接室の扉がノックされた。
「龍の姫巫女様の侍女ローラ・ウィットヴィルが御目通りを願っております。」
扉を守っていた近衛騎士の報告にファヴィリエ・ルカは苦笑した。
新たな扉を利用するのではなく、正規の扉から侍女が来た。
リリィ自ら訪ねて来てくれる事を期待しているファヴィリエ・ルカだったが、現実はそう簡単ではないようだ。
「通せ。」
今、この部屋には近衛騎士団長のセオドア・ローリングがいる。
必要ならば宰相フィリックス・ガルシアを呼んでも良い。
「失礼致します。
リリィ様より、要望書をお持ち致しました。
何よりも、こちらを最優先でお読みいただければと・・・。」
ローラ・ウィットヴィルが持ってきた書簡を差し出すとファヴィリエ・ルカは楽しそうに笑った。
「さて、次は何をしようと言うのかな。」
楽しそうな皇帝に気付いたのか、ローラとセオドアが微笑んでいる。
家臣達にとって主人と婚約者が仲が良い事は喜ばしい事であった。
書簡を開いたファヴィリエ・ルカは書かれた文を読み、ニッコリとした。
「シオン・ポリティス伯爵を呼べ。」
また、何かが始まろうとしている。
ものづくりの熱が冷めない内にと、手を加える作業に勤しんでいたリリィは皇帝の執務室に出入りする王宮勤めの者達に不思議そうな視線を送られていた。
廊下と皇帝の執務室の間に応接室を作り上げた時には、訪れてきた文官が驚いたようにキョロキョロとしていた。
昨日までなかった部屋が出来ていたのだ。
驚くのも無理はない。
応接室を作る際に皇帝の執務室が少し狭くなったが「元々、無駄に広かったから問題ない。」とファヴィリエ・ルカは出来上がりに満足そうに笑った。
彼が何よりも喜んだのは、執務室の奥に新たに取り付けられた扉である。
離宮“百合の宮”へ直接通じる扉のお陰で、毎日の様に通う事が出来し、婚姻が正式なものとなればファヴィリエ・ルカとリリィの私室としての役目が離宮にはある。
何が良いって、廊下を歩いている時に無駄に話しかけられる事がない。
リリィに会いたい者が付いてこようとする事もあるし、散々脅したにも関わらず、奇跡を求めた貴族令嬢や侍女が目にチラつく事もある。
ファヴィリエ・ルカにとって、王宮は決して落ち着く場所ではない。
それでも、離宮“百合の宮”でリリィが待っていると思えば、毎日が楽しかった。
現に、扉が出来上がった日から毎日の様に食事を共にしているのだ。
もはや、重荷を背負う彼にとっても離宮は落ち着く場所となっている。
結婚まで半年、リリィは着実に王宮と後宮を変えていた。
緑龍・ジンの話によれば、リリィの行動は龍で言う縄張りの確保と主張なのだそうだ。
王宮で働く者達の話によれば、以前よりも働きやすく、雰囲気も良いらしい。
龍の姫巫女が与えるのは龍気といった力技だけでない。
王宮のひいては帝国の空気を変えてしまう。
それこそが、龍の姫巫女という存在なのだ。
新しく出来上がった扉が、いつ開くとも分からない期待に膨れながら執務をこなす毎日だった。
コンコンコン
応接室の扉がノックされた。
「龍の姫巫女様の侍女ローラ・ウィットヴィルが御目通りを願っております。」
扉を守っていた近衛騎士の報告にファヴィリエ・ルカは苦笑した。
新たな扉を利用するのではなく、正規の扉から侍女が来た。
リリィ自ら訪ねて来てくれる事を期待しているファヴィリエ・ルカだったが、現実はそう簡単ではないようだ。
「通せ。」
今、この部屋には近衛騎士団長のセオドア・ローリングがいる。
必要ならば宰相フィリックス・ガルシアを呼んでも良い。
「失礼致します。
リリィ様より、要望書をお持ち致しました。
何よりも、こちらを最優先でお読みいただければと・・・。」
ローラ・ウィットヴィルが持ってきた書簡を差し出すとファヴィリエ・ルカは楽しそうに笑った。
「さて、次は何をしようと言うのかな。」
楽しそうな皇帝に気付いたのか、ローラとセオドアが微笑んでいる。
家臣達にとって主人と婚約者が仲が良い事は喜ばしい事であった。
書簡を開いたファヴィリエ・ルカは書かれた文を読み、ニッコリとした。
「シオン・ポリティス伯爵を呼べ。」
また、何かが始まろうとしている。
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