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舞踏会と言う名の

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 大広間より少し離れた一室で待たされた男は、不穏な雰囲気を感じ取っていた。

 華々しいはずの舞踏会を、どこか冷めた目で見ていた男は、その場にいる事への苦痛を感じていた。

 男の名前はヤコボ・オレゴ伯爵。

 先の皇帝に姪が嫁ぎ、自領の薬草も商売として安定を誇っていた。

 しかし、ヤコボ・オレゴという男は夢を見ない男だった。
 様々な人間との交流が増え、茶会や夜会に呼ばれる事も多かったが、それは自分の力ではなく、姪がハイゴール・ウィリの愛妾になり、側妃にまで上りつめた結果だと理解していた。

 加えて言えば、姪の素行の悪さも耳にしていた彼は、先帝の派手な女性事情も関係して、いつか寵愛も失う事も覚悟していた。

 その分、実直に生きる事を決め込み、妻や息子にも言い聞かせてきた。

 その彼の実直さが身を結んだのは、姪が己で産んだ双子の皇姫と皇子へ虐待していたと暴かれた時だった。
 
 それはオレゴ伯爵家にも衝撃をもって伝えられた。
 何せ、オレゴ伯爵領で作られている薬草が虐待に使われていたのだ。

 薬草は薬にもなるし毒にもなる。

 これまで徹底した管理の元に運営してきた薬草事業だった。

 まさか、甥が無断で王宮へ送っていた事も知らなかった。

 激昂したヤコボ・オレゴは王宮に要請された捜査に全面的に協力した。
 
 離縁した妹の引き取りには難色を示したが、これも自分の贖罪だと受け入れ屋敷の1室を与えた。

 変わり果てた妹が夜中に叫んだりする奇行に妻や息子が気味悪がっても、昔から妹に仕える者達に世話を任せ、見守ってきた。

 それもこれも、オレゴ伯爵家を許してくれた皇帝ファヴィリエ・ルカへの償いと、双子の皇姫と皇子を大事にしてくれた感謝の為だった。

 しかし、この日、ヤコボ・オレゴは再び何かが起こったのだと理解した。

 玉座から自分を見下ろすファヴィリエ・ルカの瞳が、それを物語っていた。

 何かが起こったのだ。

 ノックもなく、ガチャっと扉が開くと皇帝陛下を守る近衛である護衛騎士隊長のセオドア・ローリング伯爵が中を確認し、宰相フィリックス・ガルシアと共に皇帝ファヴィリエ・ルカが部屋に入ってきた。
 
「ヤコボ・オレゴ伯爵。
 息災か?」

「ハッ。」

 即座に立ち上がったヤコボ・オレゴは頭を下げた。

「久々の会えたのに申し訳ないが、早速話をしよう。」

 ファヴィリエ・ルカが座るのを待つと、宰相であるフィリックスがヤコボ・オレゴに座れと示し、口を開いた。

「舞踏会が行われている最中に、オレゴ伯爵家の騎士が“芍薬の宮”への無断侵入を行いました。」

 皇帝と宰相は、その話を聞き目を瞑った男を見つめた。

 ヤコボ・オレゴは夢を見ない男だった。
 何よりも実直過ぎる男だった。

「私の監督不行きが招いた事で御座います。
 爵位を返上し、領地の全てを帝国にお返し致します。」
 
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