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舞踏会と言う名の

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 次々と現れる訪問者にリリィの口角が固まり出した頃。

 ニコニコと微笑む男が妻を伴って現れた。

 年の頃は30後半程の男は人好きな雰囲気にヒョロっとした体型で如何にも剣を持った事などない貴族の様だった。

「ラザロ・ウィットヴィル。妻・キアラ。
 皇帝陛下と龍の姫巫女様にご挨拶申し上げます。」

 ウィットヴィルと聞き、この男がクレイとローラの兄だと知ったリリィは楽しそうに微笑んだ。

「ウィットヴィル伯爵。よく来てくれた。
 奥方も息災か?」

 ファヴィリエ・ルカの問いかけに2人は頭を下げた。

「有難う御座います。」
「息災で御座います。」

 挨拶に来た貴族に対して基本的にファヴィリエ・ルカが話しかけリリィは微笑むだけだった。
 時折、リリィが声を掛ければ、その貴族は大喜びだ。

 しかし、この時ばかりはリリィはラザロに自ら声をかけた。

「ウィットヴィル伯爵。
 貴方の妹さんと弟さんにはお世話になっています。
 送り出してくれたウィットヴィル家に
感謝します。」

 彼の妹であるローラがリリィの侍女になった事は周知の事であるが、大公ディミトリオ・ハクヤの侍従が義弟のクレイである事も知る人ならば有名だ。
 
 ワサワサと人々の囁き声を背にしながらもラザロはヘラっと笑った。

「2人とも逃げ帰ってくると思っていたのですがね。
 なんだか楽しそうに仕事をしていると聞いて喜ばしい限りです。
 あの2人は私と違って責任感がありますから。 
 使い倒してやってください。
 ただ、妹がいなくなった私の仕事が増えまして、日々妻に叱責されておりますよ。」

 これが妹と共に父を幽閉まで追い込んだ男とは思えない気の抜け方だ。

 挨拶を終え、ウィットヴィル伯爵夫婦を送り出したリリィはクスクスと楽しそうに笑った。

「気に入りました?」

 ファヴィリエ・ルカが含み笑いをするとリリィはコクンと頷いた。

「面白い人。
 誰よりも頭が切れるのに、気の抜けた風を装い。
 あのヒョロっとした体も見せかけ。
 とても鍛えていらっしゃるわ。
 クレイの抜け目のなさとローラの機転の速さは、兄上に通ずるものがあるのね。」

 何故、実力を隠そうとするのか。
 ラザロ・ウィットヴィルに興味が尽きないリリィにファヴィリエ・ルカの吹き出す声が聞こえた。

「見て下さい。
 父の側にいるクレイと真反対の壁沿いにいるローラの苦虫を潰した様な顔が同じだ。」

 言われた通りにサッと視線を巡らせるとリリィはクスクスと笑った。

「あの2人、相当兄にやり込められているのね。
 でも決して嫌いじゃないわよ。
 寧ろ、信頼しているのでしょうね。
 それが気に入らないのかしら?
 人の感情って面白い。」

 皇帝と、その婚約者の感想などお構いなしのラザロ・ウィットヴィルは鼻歌混じりに妻と共にダンスに混ざるのだった。
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