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舞踏会と言う名の

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 夕方から始まる舞踏会に向けて貴族達が王宮に集まり出した。

 爵位の低い者から王宮に入るのは、どこの国でも同じだろう。
 馬車が列をなして続々と人が降りてくる。

 それを冷めた目で見ていたのはディミトリオ・ハクヤの侍従であるクレイであった。

「どう?」

 そこに義姉であるローラ・ウィットヴィルが顔を見せた。

「順調に集まってますね。
 じきにノワールが貴族達の噂話を集めてくるでしょう。
 それまでは餌に食い付く者達を観察でもしてますよ。」

「あの可愛い猫ちゃんね。
 全く、貴方に似合いの精霊が契約してくれたものだわ。」

「えぇ、自分でも思います。」

 ローラは、不敵に微笑む弟に苦笑した。

「こうやって、クレイと王宮で会えるなんて夢の様だわ。
 リリィ様のお支度は終わっているわ。
 いつでも大丈夫よ。」

「分かりました。
 主人達に伝えます。
 今日は、義兄上も来られるのでしたね?」

「えぇ。
 夫婦で来るわ。
 夢が壊れる人達の顔が見れるのが楽しみだって手紙が来てたわ。」

 クレイは思わず口元を緩めると歩き始めた。

「相変わらずで何よりです。
 また後ほど会いましょう。」

「えぇ。
 貴方もしっかりね。」

 弟と姉は背を向けて、それぞれの主人の元に帰って行った。
 
 クレイは主人であるディミトリオ・ハクヤの宮殿の扉をノックすると遠慮する事なく入って行った。

「人が集まり出しています。
 皇帝陛下の準備の終了が報告され、只今、リリィ様の準備も整ったそうです。」

 ディミトリオ・ハクヤは派手を抑えた紺色の衣装に身を包み、珍しく髪も綺麗に整えていた。

「そうか。私もそろそろ向かうとしよう。
 今日はお前の兄も来るのだったな。」

「はい。
 夫婦で出席するそうです。
 義姉曰く、人の夢が砕かれる瞬間を楽しみにしているそうです。」

 それを聞きディミトリオ・ハクヤは「クククッっ」と笑った。

 クレイの義兄であるラザロ・ウィットヴィルは妹と共に父を自領の教会に幽閉するとウィットヴィル伯爵家を継いだ。
 
 幼い頃から自身の父親は弱い男であると思って達観して世を見ていたラザロは想像以上に妹弟を大切にした。

 特に父の犠牲となった哀れな義弟には心を配っていた。
 寧ろ、可愛がり過ぎて義弟のクレイがウザったがる始末だ。

 そんなウィットヴィル兄弟の能力は高く、ディミトリオ・ハクヤの元で働くクレイが諜報活動に長けているとしたら、姉であるローラは領地運営に才能があった。
 長兄であるラザロ・ウィットヴィルは、そのどちらも妹弟以上に能力を発揮した。
 今も人の目を集める事なく、様々な情報を武器に自領の運営に励んでいる。

「お前の兄は優秀だからな。
 今日も何か面白いモノでも見つけるかもしれないな。」

 クレイは、少し嫌そうな顔で主人を見つめた。

「あの人に気を抜かないで下さいよ。
 皆んな、あの気の抜けた笑顔に騙されるんです。
 怖い男ですよ。
 うちの兄は・・・。」

 
 
 
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