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この時期、誰しもが忙しい

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 ファヴィリエ・ルカの執務室には連日のように訪問者が現れていた。

 新皇帝が行う人事変更に伴い、王宮が呼びつけた者もいるが、時には希望の役職を求める貴族が無理やり押しかけて来る事もある。
 そんな人間は何かと居座り時間を取られる事も多く辟易する。

 先代皇帝時分に好き勝手やっていた者達が処分され、多くの重要ポストが空いている事は確かだったが、だからと言って誰それ構わずに任命して良い話ではない。

 それにはディミトリオ・ハクヤの力を借りて面談を繰り返し、納得いくまで時間をかける気でいた。
 
 先程も、息子の職を求める高位貴族が居座っていたところだ。
 ウンザリする気持ちを押し殺していた所にノックの音がして扉前を守護する騎士が顔を出した。

「目通りを願っている者がおります。」

「誰だ?」

 聞き返したのはファヴィリエ・ルカではなく近衛騎士団長に任命されたセオドア・ローリング伯爵である。

 このセオドア・ローリングという男はディミトリオ・ハクヤの不遇時代を支えた親友であり、それゆえに先帝に嫌われ辺境の地に追放された人物である。
 先帝が退位し、自身が復権するとディミトリオ・ハクヤから新皇帝を最も近くで守って欲しいと頼まれた。

「ただの皇帝だったら断るが、ハクヤ殿の息子なら喜んで仕えよう。」

 と慣れ親しんだ辺境の地を息子に譲り、近衛騎士団長としてファヴィリエ・ルカの側にやって来た。

 彼もまた、ファヴィリエ・ルカの日々の疲れに気を遣いつつ、若き新皇帝が頑張る姿に感嘆していた。
 普段であれば、宰相であるフィリックス・ガルシアが冷静な判断で追い返しているが、今は席を離れている。
 本来の仕事ではないが、セオドアは部下に答えた。

「陛下はお忙しい。
 内容によっては帰っていただけ。」

「あの・・・それが、龍の姫巫女様の侍女殿でして・・・。」

 口籠る部下にセオドアは溜息を吐いた。

「それなら、早くそう言え。
 陛下?」

 ファヴィリエ・ルカはセオドアの心遣いに感謝しながら嬉しそうに頷いた。

「最優先事項だ。
 通せ。」

 セオドアはこの短時間に若き皇帝が龍の姫巫女に向けるピュアな気持ちを感じ取っていた。

 部屋に入って来たのは龍の姫巫女の侍女であるアリスだった。
 表情は豊かではないが、ディミトリオ・ハクヤが信頼している数少ない人物と思えば、自然とセオドアも受け入れる事が出来た。

「お疲れのところ申し訳ありません。
 リリィ様より、皇妃の執務室の設計図をお預かりしましたのでお持ち致しました。」

「有難う。
 見せてくれ。」

 アリスの差し出す設計図をファヴィリエ・ルカは嬉しそうに覗き込んだのだった。

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