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決して誰もが同じでない

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「目障りよ!
 早く片付けて来なさいよ!!」

 侍従や侍女の研修見学を切り上げて王宮に向かおうとしていたリリィ達の耳に鋭い声が聞こえてきた。

 屋敷には庭もついており、茶会などの為の研修に使われてるはずだ。
 まばらだが、庭に人がいる事から、この日も研修が行われていたのだろう。

「茶会の研修の片付けかな?」

 コテツの囁きにリリィは頷いた。

「こんなのも持てないの?
 あんた何でここに居るのよ!」

「貴族の私達がアンタと同じ班で研修なんて最悪。」

「雇われたって、どうせ雑用に決まってるさ。
 こんなの1人でやってこい。」

「馬鹿言うな。平民が王宮で働けるものか。」

 どうやら、数人で1人を囲んで揉めているらしい。

 険しい顔をしたリリィが、そちらに足を向けると同時に白銀の龍・ルーチェは腕輪になった。
 面倒事が嫌いと言うリリィであるが、これを許すはずがない事ぐらいコテツにも分かる。
 短く息を吐くと、暴言を吐いている人物達の愚かさを呪った。

「用無しの役立たずがっ!
 お前なんて存在すら烏滸がましい!!
 さっさとここから立ち去れ!
 ここは高貴な者が務める場だぞ!!」

 男が大きな声で罵声を浴びせる背中にリリィの冷たい声が刺す。

「馬鹿なの?
 神は無駄なものなどお作りにならないわ。
 必要だから存在させているのよ。
 貴方、神を代弁して冒涜でもしているの?」

 差し詰め刃を向けられたかの様に怯える者達が振り返ると、そこには美しい女性・・・リリィが冷めた目で見つめていた。

「それとも神になったつもり?」

 ニヤリと笑うリリィに先の発言をした男が唖然としている。

 リリィは集団で囲んでいる相手が誰だと覗き込むと、まだ年端もいかない少年が蹲っていた。

「まさか、皇帝陛下の元で働こうという者達が幼子を虐めていたなんて言わないわよね?」

 それを聞いて顔をあげた少年が、リリィの顔を見てハッとして平伏した。

 少年の行動など目に入らない者達はタジタジになりならがもリリィに睨みつけた。

「関係ない人が何の用?」
「他の班なら、こっちの事は放っておいて。」
「大袈裟にするなら、こっちにも考えがあるぞ。」
 
 体よく脅す言葉も出始める彼らにリリィは溜息を吐いた。

 そして最後に1人の男がニヤニヤとしながら近づいてきた。

「やあ、美しい人。
 貴族の君なら我々の言う事も分かるだろう?
 王宮にはこんな粗末な人間はいらないのさ。」

 触ろうとしてきた男の手をコテツが叩いた。

「痛っ!!」

 あまりの痛さに男は声すら出す事が出来ずにいた。

「無礼者がっ!」

 大柄のコテツの登場に周囲が騒然とする。
 そこに、教官達が慌てて駆けつけた。

「龍の姫巫女様!!」
「彼らが未熟とは言え、誠に申し訳ございません!!」

 龍の姫巫女が現れ庭は一際騒がしくなった。
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