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後宮にも新たな風が吹く

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「あぁぁぁぁ。
 やんなるねぇ。」

 戻って来たフィリックス・ガルシアがソファに身を投げ出すとファビリエ・ルカは一瞬ニコッと微笑むと真面目な顔に戻した。

「それで?」

「とりあえず、父親はロザンナの虐待の件は知らなかった。
 可愛い娘が恐ろしい事をしていたなんて信じたくなさそうだったよ。
 息子・・・ここではロザンナの兄と言っておこう。
 兄であるグラバルは黒!
 真っ黒の真っ黒だよ。
 俺の言葉に怯えるくらいなら、最初からするなって。」

 ムクリと起き上がったフィリックスは手を組んで不愉快な時間を回顧し始めた。

____

「こちらはユニエ・アミ様とテムズ・ダン様が誕生された時から記録された侍医の報告書です。
 何か感じられる事はありませんか?」

 差し出された書類に目を通していく先代伯爵ピエールの顔は青白くなっていき、手が震え書類が音を鳴らしていた。

「・・・これは。
 皇姫殿下と皇子殿下がお体が弱い事は知っておりましたが、これ程の症状だったとは・・・。」

 孫を心配する祖父の一面を見せたピエールにフィリックスは顔色も変えない。

「ご安心下さい。
 離宮に移られてからも何度か熱を出された事がありましたが、直ぐに処置をされてご無事です。
 その際にお体を検査をしましたが、侍医に言わせれば本来は御丈夫な体だそうです。
 にも関わらず、症状が出てしまう。
 それについて、どうお考えですか?」

 何故、自分達に聞くのだと不思議そうなピエールは眉間に皺を寄せた。

「後宮は子供達にとって寛げる場所ではないのでしょう。
 此度も環境が変わり、心労が祟っているのでは?」

 お前ら王宮の所為だろうとばかりのピエールにフィリックスは小さく頷いた。

「それは同意します。
 幼い身で如何に御苦労された事だと察します。」

「ならば、母の元に返して下さいませんか?
 娘は私と共に所領へ帰る身。
 皇姫や皇子をのびのびとお育てする事ができます。」

「それは・・・殺す気ですか?」

 娘を思う父が孫と過ごす事を夢見て言った事だろうが、フィリックスの凍て付く様な攻撃的な声にビクリとした。

「皇姫と皇子を殺す気なのかと問うたのです。」

「・・・何を仰っているのか分かりません。」

 フィリックスは、戸惑うピエールを高圧的に威圧した。

「前皇帝の側妃ロザンナ。
 貴方の娘には皇姫ユニエ・アミ殿下、皇子テムズ・ダン殿下に対する虐待の嫌疑がかけられています。
 ロザンナが妹殿下と弟殿下に与えた地獄を知り、皇帝陛下はお怒りです。
 それはそれはお怒りなのです。」

 ブルブルと震えながらもピエールは必死に首を横に振った。

「そっ・・そんな訳がない!!
 ロザンナが虐待なんて!
 何かの間違いだ!!」

 ピエールの激昂にもフィリックスはお構いなしだ。

 広く大きなテーブルに1枚1枚と証拠を並べていく。

 顔面蒼白だった顔は血色もなく、今にも気絶しそうだった。

「先の皇帝の時代にオンブロー伯爵家から後宮に未承認の薬や毒が多く運び込まれている事は突き止めました。
 まずは、それ自体が罪です。
 今回、皇姫の体から微量の毒素を検出しました。
 オンブロー伯爵家から齎された毒の成分と一致しています。」

「なんて事だ・・・何故こんな事に。」

 呟くピエールを一瞥してフィリップスは次の標的に視線を巡らした。

「それは、先ほどから黙り込んでいる御子息にお聞きしましょう。」

 ピエールは機械仕掛けの人形の様に隣に座る息子を見つめた。

 そこには表情もなく淡々と資料を見つめる息子の姿があった。
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