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後宮にも新たな風が吹く

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「えぇ・・・それ必要?」

「必要だ。」

「面倒な事になってきたわね。」

「逃げられないぞ。」

 先程までのほんわかした雰囲気が一変して、リリィの顔が顰めっ面になっている。

 何が問題になっているのかというと、先も言っていた侍女と侍従の育成において、ディミトリオ・ハクヤはリリィの使用人も増やすと伝えてきたのだ。

「私には優秀な侍従と侍女がいるわ?」

「知っている。
 あの2人は優秀過ぎる。
 リリィの世話だけじゃなく、護衛も出来るなんて、これ程の逸材は見た事ない。」

「それに私、自分の事は自分でできるもの・・・。」

「それも理解している。
 リリィは完璧な女性だ。
 でも、これから皇妃になるのだから人手は必要になる。
 コテツやアリスだって、四六時中リリィの側にはいられなくなるかもしれない。」

「ルーチェ達がいるわ・・・。」

 いつもと違い、簡潔に受け入れる事のないリリィにディミトリオ・ハクヤは困った。

「周りに知らない人がいると落ち着かないわ。」

「・・・まさか。
 まさかと思うが人見知りを発揮しているのか?」

「・・・。してない。」

「してるんだな。」

「してない。」

「「・・・。」」

 2人はなんとも言えない顔で見つめ合った。

 リリィは龍王島で暮らしていた。
 周囲にいたのは龍や他の生き物達ばかりで人と言えばコテツとアリスだけだった。
 
 いや・・・いたではないか。

「人付き合いが苦手な方じゃないだろう。
 師匠だって、他の賢人とだって初めましてがあっただろうに。」

「・・・彼らは、面白いし私の味方だもの。
 私を褒めすぎもしなければ、お人形のようにも扱わない。
 目も見れない様な人とは仲良くなれない。」

 ロンサンティエ帝国に来てからのリリィは存在する人間の中で最も尊い存在だった。
 周囲が敬意を払っているとはいえ、それは崇拝対象であり、同じ人間とは思っていない。

 リリィの教育の為に龍王より召喚された賢人達は皆、リリィの先生であった。
 褒めはするが過剰な持て囃すなどしてこなかったのだろう。
 
 ディミトリオ・ハクヤはここで気づいた。

 リリィの本質は普通の娘なのだ。
 大きな力があり、大義や覚悟を持ち合わせているが、人としての付き合い方を知らぬままにいるのだ。

 だから、普通に話してくれるディミトリオ・ハクヤやファヴィリエ・ルカ、マドレーヌ達へ見せる顔と他へ向ける顔は違うのだ。

「分かった。
 ならば、褒め過ぎもせず、目を合わせ、人形扱いしない使用人ならどうだ?」

「・・・それでいて性格悪かったり、根性が悪い人じゃないなら考える。」

「分かった。
 リリィが認めない人間を側に置いたりしないよ。」

 ディミトリオ・ハクヤの言葉に安堵したのか、リリィは再び紅茶に口を付けた。

 その様子を見て、ディミトリオ・ハクヤもリリィの普通の一面を発見して安堵するのだった。
 
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