上 下
144 / 443
未来への決着

143

しおりを挟む
 ディミトリオ・ハクヤが皇帝の座を望まぬと聞いた者達は驚いた。

 中でも、ディミトリオ・ハクヤを皇帝へと押し上げようとしていた目論んでいた者達は落胆の声を上げる。

「良いのですか?
 この混乱の中、龍の使者である兄上なら皇帝になる資格もありますし、皆が納得します。
 皇帝の座を求めて再び争いが起こります。」

 ノルディン公国の国主でありながら異母弟でもあるカーライル・ザッツ・ノルディンの言葉にディミトリオ・ハクヤは楽しそうに笑った。

「今この瞬間も後宮にいる龍が見ているのにか?
 それでも愚かに争うというのなら、その時こそ龍が人類を諦める時だな。」

 ディミトリオ・ハクヤの言葉に集まった人々達はハッと息を呑んだ。

「我らは自分達の足で立たねばならない。
 帝国だの国だの我々は言うが、龍に言わせれば、それすら人間が決めた事で空を自由に飛び回る龍にとっては存在しない国境だ。
 帝国ばかりが恩恵を受けてきたと皆は言うが、龍は人類平等に愛し、その土地に恵を施してきた筈だ。
 龍の愛を分ける事なく独り占めしたのはロンサンティエ帝国だ。
 結局は人を苦しめていたのも人なんだよ。」

 静まる議会を見渡すとディミトリオ・ハクヤは優しく微笑んだ。

「一緒に懸命に生きよう。
 悔いのない様に・・・龍に恥ずかしくないように。
 生きてる我らには、それが出来る。」

 それがロンサンティエ帝国の皇子に生まれながら、守られる事なく生きてきた男の言葉だった。 

 カーライル・ザッツ・ノルディンは立ち上がると、ディミトリオ・ハクヤに頭を下げた。

「ノルディン公国の国主として、龍の使者殿に敬意を評します。
 共に生きるとの言葉、確かに受け取りました。
 ノルディン公国はこの時より、再びロンサンティエ帝国の傘下に入り、人類の平和と安寧を支えます。」

 カーライル・ザッツ・ノルディンの覚悟の顔にディミトリオ・ハクヤはニッコリと微笑んだ。

 その後は我も我もと、皆が立ち上がった。
 これで全ての人間が納得して争いをやめる・・・など、甘い話ではないだろう。
 現に、ディミトリオ・ハクヤの目にも含みを持つ顔をしている者が何人か写っていた。
 
 素知らぬ顔をする自分も随分と嫌な世界に馴染んでいるものだと自笑すると、ディミトリオ・ロンサンティエは意識を議会の話し合いに戻した。

 この日、新たな皇帝に1人の皇子が推挙された。

 ファヴィリエ・ルカ・ロンサンティエ

 国内有数の公爵家出身の母を持ち、真の実力を隠していた若き皇子には大きな期待がされた。

 議会に参加していたファヴィリエ・ルカは話が進むにつれ、自分の出自について隠しておく事が出来ないと悟っていた。
 彼は臆病な心を叱咤し、父と呼ぶべき人をジッと見つめるのだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎    2024年8月6日より配信開始  コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。 ⭐︎書籍化決定⭐︎  第1巻:2023年12月〜  第2巻:2024年5月〜  番外編を新たに投稿しております。  そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。  書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。    改稿を入れて読みやすくなっております。  可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。  書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。 いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。 山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。 初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15をつけました ※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。  作品としての変更はございませんが、修正がございます。  ご了承ください。 ※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。  依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...