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そして混迷は次代へ
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皇帝との会談を終え、サロンから出て廊下を1人歩くリリィは柱から出て来たクレイを見てクスッと笑った。
「盗み聞きしてたわね。
本当に悪い子だわ。」
自分よりも年下の少女に揶揄われながらもクレイは不貞腐れている。
その顔は一様に気に入らないと表していた。
「あの男にも言ったけど、良いのよ。
許さなくて。」
影妖精を使ってサロンの中の会話を聞いていたクレイは、話の途中から変化していく皇帝に複雑な想いを持っていた。
「今更でしょ。
あの男は嫌われて当然の生き方をしてきたのよ。
それを選んだのも、あの男だし。
あの男に苦しめられた人達の恨みも、その人達の物よ。」
リリィにペシペシと頬を優しく叩かれながらクレイは頷く。
「どうして、陛下にリリィ様の言葉は届いたのでしょう。」
これまで、1人として忠告を聞き入れなかった皇帝が若い娘の言葉によって変化した。
クレイにとって、理解し難い事だった。
それに対してリリィは肩をすくめた。
「これまでも、あの男に抗い抵抗した人達はいた事でしょう。
でも、彼らは皇帝の権力の前に敵わなかった。
そんな権力など龍の庇護を受ける私には、全く関係のない事よ。
要は・・・強き者の前でお腹を見せる犬と同じね。」
辛辣なリリィにクレイは吹き出した。
「・・・そうか。犬か。」
自分と主人の人生を苦しめてきた人間を犬と言われクレイは少し溜飲が下りた気がした。
「ほっとしている場合じゃないわよ。」
唐突に辺りを厳しい顔で伺うリリィに追随するように腕輪に収まっていた白銀の龍であるルーチェが姿を現した。
『うん。
不穏な空気が満盈している。
嫌な匂いだ。
急いで離宮に戻ろう。』
2人の雰囲気がいつもと違い驚くクレイは声を顰めた。
「皇帝が最後に何かしてくると?」
「・・・いいえ。
他の駄々っ子が我慢出来ずにいるみたいね。」
リリィはルーチェに腰掛けるとクレイを引き連れて王宮を後にするのだった。
その頃、王宮の一角は異常なまでの熱気に包まれていた。
若き貴族や騎士達の前に立つ男はジャンヴィエ・リーン・ロンサンティエ。
皇帝ハイゴール・ウィリの嫡男であり継承順位第1位となる男だ。
男は今、野望に燃えていた。
疲弊する国の原因は全て父である皇帝ハイゴール・ウィリの国政にあり、若き者達の声に耳を傾けない老いばかりを待つ貴族達にあると考えているのだ。
龍の姫巫女が現れた今、自分こそが国の頂点に立ち
滅び行く国の再生を誓った。
「龍と縁深き国の責務として、私は世界の頂点に立つ。
それこそが、世界から争いをなくし再びロンサンティエに栄光の光を齎すのだ。
その為には力がいる。
幸いな事に、私の時代に龍の姫巫女が現れた。
これは天命だ。
私こそが国を・・・世界を救う事ができるのだ。」
彼もまた龍の言葉を都合良く解釈している人間の1人であった。
「盗み聞きしてたわね。
本当に悪い子だわ。」
自分よりも年下の少女に揶揄われながらもクレイは不貞腐れている。
その顔は一様に気に入らないと表していた。
「あの男にも言ったけど、良いのよ。
許さなくて。」
影妖精を使ってサロンの中の会話を聞いていたクレイは、話の途中から変化していく皇帝に複雑な想いを持っていた。
「今更でしょ。
あの男は嫌われて当然の生き方をしてきたのよ。
それを選んだのも、あの男だし。
あの男に苦しめられた人達の恨みも、その人達の物よ。」
リリィにペシペシと頬を優しく叩かれながらクレイは頷く。
「どうして、陛下にリリィ様の言葉は届いたのでしょう。」
これまで、1人として忠告を聞き入れなかった皇帝が若い娘の言葉によって変化した。
クレイにとって、理解し難い事だった。
それに対してリリィは肩をすくめた。
「これまでも、あの男に抗い抵抗した人達はいた事でしょう。
でも、彼らは皇帝の権力の前に敵わなかった。
そんな権力など龍の庇護を受ける私には、全く関係のない事よ。
要は・・・強き者の前でお腹を見せる犬と同じね。」
辛辣なリリィにクレイは吹き出した。
「・・・そうか。犬か。」
自分と主人の人生を苦しめてきた人間を犬と言われクレイは少し溜飲が下りた気がした。
「ほっとしている場合じゃないわよ。」
唐突に辺りを厳しい顔で伺うリリィに追随するように腕輪に収まっていた白銀の龍であるルーチェが姿を現した。
『うん。
不穏な空気が満盈している。
嫌な匂いだ。
急いで離宮に戻ろう。』
2人の雰囲気がいつもと違い驚くクレイは声を顰めた。
「皇帝が最後に何かしてくると?」
「・・・いいえ。
他の駄々っ子が我慢出来ずにいるみたいね。」
リリィはルーチェに腰掛けるとクレイを引き連れて王宮を後にするのだった。
その頃、王宮の一角は異常なまでの熱気に包まれていた。
若き貴族や騎士達の前に立つ男はジャンヴィエ・リーン・ロンサンティエ。
皇帝ハイゴール・ウィリの嫡男であり継承順位第1位となる男だ。
男は今、野望に燃えていた。
疲弊する国の原因は全て父である皇帝ハイゴール・ウィリの国政にあり、若き者達の声に耳を傾けない老いばかりを待つ貴族達にあると考えているのだ。
龍の姫巫女が現れた今、自分こそが国の頂点に立ち
滅び行く国の再生を誓った。
「龍と縁深き国の責務として、私は世界の頂点に立つ。
それこそが、世界から争いをなくし再びロンサンティエに栄光の光を齎すのだ。
その為には力がいる。
幸いな事に、私の時代に龍の姫巫女が現れた。
これは天命だ。
私こそが国を・・・世界を救う事ができるのだ。」
彼もまた龍の言葉を都合良く解釈している人間の1人であった。
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