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皇帝が欲しかったもの

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 廊下から見えるガラス張りのサロンには異国から集めた植物が美しく飾られていた。

 外はどんよりした雲空。
 その中でいて龍の姫巫女リリィは光を放つように美しく座っている。

 まるで、彼女にだけ光が注いでいる様だった。

 入り口で立ち止まって、思わず見惚れていた皇帝ハイゴール・ウィリに気づくとリリィは微笑んで会釈をした。

「・・・待たせたな。」

「いいえ。
 待つ時間はいつも楽しいものです。」

「私は待つのは好きじゃない。」

「待つ時間が楽しみを増長させるのですよ。」

 こんな些細な事でも2人の意見は相容れない。

「何しに参った。
 其方の離宮に行くと言ったのが気に入らないか。」

 単刀直入に問いかける皇帝ハイゴール・ウィリに対し、リリィはクスクスと笑った。

「気にいりませんね。
 貴方は龍の縄張りに無闇に入る危険を理解できていない。」

「ここは、私の宮殿だ。
 私が何処に行こうが私の勝手である。」

 リリィの言葉に即座に反応した皇帝ハイゴール・ウィリは不機嫌に顔を顰めた。

「残念ですが、人の決めた事を龍が尊重する事はありません。
 貴方の宮殿の1つは既に龍が自身の物と決めてしまった場所がある。
 龍は縄張りを守る為にあらっぽい手段を用いる可能性だってあるのです。」

「それを宥めるのが其方の役目だろう。」

 穏やかな表情を変えないリリィにハイゴール・ウィリはイライラとして言った。

「龍達と人間の間を取り持つのが役目であり、龍を使役するのは違います。
 龍は自由です。
 彼らの行動を見守りこそすれ、彼らに命令するなど以ての外ですよ。」

 皇帝ハイゴール・ウィリと龍の姫巫女が互いに引かずにいる間に紅茶を淹れていたメイドの手がブルブルと震えている。

 皇帝に緊張しているか、いや・・・この場合は龍の姫巫女の存在に怯えているのだろう。

 震える手で皇帝の前に紅茶を置くと、睨まれるのも耐えられないとばかりに去って行った。

「リリィ様。」

 ペコリと頭を下げる宰相ムク・フラン侯爵は己の言葉を聞いてもらおうと一歩前に出てきた。

「何故、リリィ様は今だに宝樹の復活をされていないのでしょう。
 貴族の中にはリリィ様の力に疑問を持つ者もおります。
 お立場を考えれば、速やかに宝樹の復活をさせるべきではないのですか?」

 皇帝ハイゴール・ウィリは宰相の言葉も最もだとリリィを見つめた。

「貴族の戯言に従う事はありません。
 今は、まだ龍が宝樹の復活を認めていないのです。
 私の立場は問題ありません。
 重要なのは龍の判断です。」

 ハッキリと言うリリィにハイゴール・ウィリはウンザリしたように首を振った。

「龍・・・龍・・・龍。
 そればかりだ。
 其方には自分の意見がないのか?」

「龍に従う。
 それが私の意思です。
 それならば、貴方のには自分の意思とやらがあるのかしら?
 ここまで国を荒廃させた本であるのに。」

 コテンとリリィは首を傾げた。
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