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道端に咲く野菊

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 シモツキ・レイの身が第一側妃マドレーヌの元に送り届けられたのはマムの葬儀が終わって5日程だった頃だった。

 その間、1度だけ様子を見にきた皇帝ハイゴール・ウィリは何が起こっているのか分かっていない小さな娘に声をかける事なく去って行った。
 
 皇帝はマドレーヌにシモツキ・レイの教育を一任し、渋い顔をする皇妃や他の側妃を黙らせた。
 そして、これ以上の騒ぎは御免だとばかりに王宮の自室に籠ってしまった。
 後宮に足を運ぶ事も愛妾ベルナの下に向かう事もなく、ベルナが手紙を書いても返事を出す事もない。
 対外的には喪に服すとの発表があったが、後宮に集う女達には今までと違う皇帝に戸惑いが広がっていた。


 “桃華の宮”に連れてこられたシモツキ・レイは桃の花が咲き誇る庭を見渡してた。

「レイ様。
 行こう。」

 シモツキ・レイの手をしっかりと握っているのはアンディ少年だった。
 2人はアンディの母である侍女カルアと共にマドレーヌに身を預けられたのである。

 屋敷の入り口には可憐に微笑む女性が待っていた。

「よく来ましたね。
 今日から、此処が貴方のお家になります。
 元気いっぱいに庭を走り回って良いのですよ。」

 マドレーヌに挨拶をしたシモツキ・レイはアンディ少年と共に走り出した。

 賢い小さな姫は母と別れた理由を分かっていた。
 母は自分との未来の為に離れるのだと言った。
 今度、会う時は力一杯に抱きしめてもらって沢山褒めてもらうのだ。
 ならば、今は母に会う為に生きていくしかない。
 小さな姫は少年の手を引っ張り楽しそうに笑った。


 そんなシモツキ・レイをマドレーヌは目を細めて見つめていた。

「貴方にも苦労をかけますね。」

 そう声をかけた相手は侍女であるカルアであった。

「勿体無い事です。
 第一側妃様の御慈悲に感謝します。」

「これも全て、龍の姫巫女様の御導きです。
 これから後宮・・・いいえ、国は変わっていくのでしょう。
 この息苦しい世界に鍵穴を開けようとなさるリリィ様のささやかな願いを、叶える事くらいしか私には出来ません。
 どうか、レイ様には美しい世界を見てほしい。
 マム様が御戻りになるまで、私がレイ様を御守りします。」

 カルアは、マドレーヌの言葉に目を見張った。
 噂では病気で離宮に篭りがちと聞いていた。
 侍女仲間から皇帝陛下との悪縁の話も聞いた事もある。
 この、第一側妃である女性はこんなに強かっただろうか?
 人前では可憐で儚く、脆い女性に見えていた。

「この離宮は人手が足りないの。
 貴方にもしっかり働いてもらうわ。
 レイ様には笑っていてほしいもの。 
 それが、彼女を守る全ての大人の願いです。」

 カルアはマドレーヌに頷くと静かに決意した様に頭を下げた。
 
 
 小さな姫を励ますように桃の木からから現れた光の玉がぷよぷよと浮いていた。
 シモツキ・レイは光の玉を手にすると楽しそうに微笑んだ。

 これが精霊との契約だと知るのは、もう少し先の話。
 龍やジョーディ達から聞いたリリィやディミトリオ・ハクヤが喜んだのは言うまでもない。
 
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