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道端に咲く野菊

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 時の皇帝の為に用意された後宮は女の花園である。

 離宮を得た皇妃や側妃に王宮に寄り添う大きな宮殿に部屋を貰う愛妾達。
 現在は離宮の全てが埋まり、宮殿の部屋にも多くの女達が皇帝が来るのを待っていた。

 それぞれの離宮には塀と門が存在し、許可なき者が立ち入る事はない。
 例え、皇妃であろうとも他の側妃達の元へ向かう時は一報入れるのが当たり前であった。

 逆に言えば、その他の場所は後宮に出入りする者ならば、何処へでもいける。
 
 洗濯や掃除を担う侍女達、後宮を彩る庭を管理する庭師、公務が存在する皇妃や側妃には文官達が訪れる事もしばしばだ。


 そんな訳で、“百合の宮”の門前で人がいるという事も決して処罰される事ではない。

「どうする?」

「どうしよう・・・。」

 2人の子供が“百合の宮”の門を見上げて困っていた。
 
 何故、2人が困り果てているかと言うと、仲良く球を投げて遊んでいたのだが運悪く、その球が“百合の宮”の門の向こう側へ行ってしまったのだ。

 離宮の中に入ってはいけないと親から厳命されていた子供達は開くか分からない門の前で立ち往生していた。

 2人の子供の恐怖は実は離宮に入ってはいけないと言う母の教えばかりではない。
 ついこの間まだ、この離宮は2人とってお化け屋敷だったのだ。

 後宮で働く侍女達の娯楽は噂話である。
 仕事に勤しみながらも有る事無い事を口にする事で、日々の鬱憤を晴らすのが侍女達の日常だ。

 そんな女達の鳥の囀りのような噂話を、側にいる子供達が耳にし覚えているなど、誰しもが気にする事もなかった。
 
 2人の子供は、自分達の大切な球が入ってしまった離宮がかつて皇帝に疎まれた側妃や愛妾達が閉じ込められていた場所だと知っていた。
 多くの女の怨霊が棲みつき、人々を呪い殺そうとしているのだと耳にしたのだ。

「・・・帰ろう。」

「でも、球が・・・。」

 諦めようと促す少年と諦められない少女が互いに手を繋ぎ泣きそうな顔で門を見つめていた。

 その時だった。
 
キキィー

 小さな音を立てて門が開いた。

 顔面蒼白な2人の子供は逃げ出そうにも足が動かずに立ち尽くすばかりだった。

「御用でしょうか?」

 門から顔を出した侍女は、そんな2人に優しく微笑む。

「た・・・球が中に・・・。」

 勇気を出した少年が声を張り上げると、侍女は再び微笑み離宮の門を大きく開け放った。

「どうぞ、お入り下さいませ。
 私も一緒に探しましょう。」

 中に入る勇気のない2人の子供は怯えて首を横に振った。

「アリス。
 どちら様かしら?」

 奥から声がしたかと思えば、2人の子供達の前に天使のように美しい娘が現れたのだった。
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