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皇帝が欲しかったもの

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「失礼致します。」

 リリィの和やかなダイニングリビングにディミトリオ・ハクヤの侍従クレイが入ってきた。

 その顔は一応に暗い。

「何かあったか?」

 問いかけるディミトリオ・ハクヤにクレイはコクンと頷いた。

「国王陛下が龍の姫巫女リリィ様の離宮へ訪問されると通達がありました。
 ・・・今夜です。」

 それが何を意味するのか誰もが分かっていた。

「そうか・・・今夜か。」

 呟くディミトリオ・ハクヤは隣に座っているファヴィリエ・ルカが握りしめる手が白くなっているのに気がつくと肩をポンと叩いた。

「大丈夫です。
 リリィは安全ですから。」

「・・・でも。」

 もう父とは思えない皇帝であるが、好色である事は子供の頃より知っていた。
 ファヴィリエ・ルカは後宮で生き残った皇子の中でも皇帝と距離をとっている1人である。

 皇帝が何を理由にリリィの元を訪れようとしているかは一目瞭然だった。

 初めて会った時に、あれ程の醜態を晒しておいて、今更リリィを所望する理由は先の宴の時に目にしたリリィの妖艶な舞を目にしたからだろう。

「リリィは皇帝を拒否する事のできる唯一の存在です。
 それにほら、ご覧なさい。」

 ディミトリオ・ハクヤはキッチンから聞こえるリリィの笑い声に微笑んだ。

 そこには白銀の龍ルーチェと戯れるリリィの姿があった。

「龍達がリリィを守ってくれます。
 兄上・・・皇帝陛下が痛い目を見る事なく事態が収まればいいのですが。」

 後宮に身を置いているという事は皇帝陛下の所有物を意味する。
 恐らく皇帝ハイゴール・ウィリは今もそう思っているのだろう。
 ディミトリオ・ハクヤは兄を哀れに思った。

 もはや、兄の足元は崩れ始めているのだ。
 気づいていないのか、気づいていて今も醜態を晒そうとしているか・・・。
 ディミトリオ・ハクヤは大きな溜息を吐いた。

「頼むから、王宮を壊すような真似だけはしないでくれ。
 修繕やら撤去に金がかかり過ぎる。」

 ディミトリオ・ハクヤの言葉を聞いたリリィがキッチンから顔を出す。

「それは彼次第でしょう。
 龍の怒りは誰にも止められない。
 何を犠牲にし、何を得るのか・・・そろそろ覚悟を決めなさい。」

 ファヴィリエ・ルカは叔父とリリィの会話の意味を理解しようと必死だった。

『君にできる事は何もないよ。』

 纏わり付くルーチェがファビリエ・ルカに言った。

「・・・しかし。」

『君の出番はまだ先の事。
 今は、静観して事態を観察でもしてるんだね。
 生き残る・・・それが、君の仕事だ。』

 ルーチェの金色の目がファヴィリエ・ルカを縛り付けて逃がさない。

 ファヴィリエ・ルカは龍の助言を受け入れると素直に母の元へ帰って行った。
 
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