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桃の涙と覚悟
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この日は良く晴れていた。
昼には早い時間にリリィはアリスとコテツを供に鮮やかなピンク色が映える桃の花が咲き誇る離宮の門の扉を叩いた。
音も立てずに開いた扉の向こうには年老いた侍女がおり、リリィを確認すると優しく微笑み頭を下げた。
「龍の姫巫女リリィ様。
“桃華の宮”へようこそお越しくださいました。
離宮の主人であるマドレーヌ様の元へご案内致します。」
年老いた侍女が促すのをリリィは躊躇う事なく足を踏み入れた。
「今の時期にも桃の花が咲いているの?」
旬など既に過ぎているにも関わらず、この離宮を囲む桃の花は元気に咲いている。
「この離宮の桃の木には保護魔法がかけられております故・・・。
ずっと咲いているのです。
この後宮で唯一マドレーヌ様の心を癒しているのが桃の木に御座います。」
年老いた侍女の意味ありげな話を聞いたリリィが桃の木に手を翳した。
「・・・あぁ。なるほど。
よく分かったわ。」
楽しそうに微笑むリリィに年老いた侍女が優しく微笑んだ。
「さぁ、参りましょう。」
年老いた侍女のスピードに合わせゆっくりと歩いていると、離宮の玄関にピンク色の髪をした女性が立っているのが見えた。
「ようこそお越し下さいました。」
そう出迎えるマドレーヌ側妃は、先日と違い髪を飾りつける事なく簡素に束ねていた。
「御招待頂き有難う御座います。」
礼儀正しく挨拶するリリィにマドレーヌ側妃が微笑んだ。
「皇妃様ほどとはいきませんが、甘いものと茶を用意しておりますの。
こちらへどうぞ。」
そこからはマドレーヌ側妃が案内した。
「ごめんなさいね。
この離宮は他と違って人手がないのです。
手入れは怠っておりませんので、ご安心下さい。」
己自ら案内をしている理由を説明するマドレーヌ側妃にリリィは微笑んだ。
「あぁ、だから皇妃様の離宮よりも落ち着くのですね。
見た目の派手さよりも、心使いが洗練されています。」
そう言うと、リリィは廊下に飾られた1輪の花に触れた。
案内された部屋には一人の従者がいた。
後宮内の離宮にいる事から、彼も宦官なのだろう。
目を薄い布で覆っている事から、目が見えていないのだとリリィは推測した。
「よく仕えてくれているのです。
粗相は致しません。」
伺う様なマドレーヌ側妃にリリィは頷いた。
「承知しました。
何か手が必要なら、私の侍女と侍従をお使い下さい。」
すると、目を隠した侍従の男が静かに頭を下げた。
「有難う存じます。」
男は本当に見えないのか?と疑うくらいスムーズに茶の準備をした。
「それでは、御招き頂いた理由をお聞きしましょうか?」
椅子に座り一息ついたリリィがマドレーヌ妃を見つめた。
彼女は、何から話したら良いのか探しているようだった。
あの日・・・皇帝が開いた宴でマドレーヌ妃はリリィを呼び止めた。
周囲に人がいるのも憚らず声を掛けたマドレーヌ妃には、流石のリリィも驚いたものだった。
何も言わずに窓から桃の木を見つめるマドレーヌにリリィは声をかけた。
「時間はあります。
ゆっくり聞きましょう。」
昼には早い時間にリリィはアリスとコテツを供に鮮やかなピンク色が映える桃の花が咲き誇る離宮の門の扉を叩いた。
音も立てずに開いた扉の向こうには年老いた侍女がおり、リリィを確認すると優しく微笑み頭を下げた。
「龍の姫巫女リリィ様。
“桃華の宮”へようこそお越しくださいました。
離宮の主人であるマドレーヌ様の元へご案内致します。」
年老いた侍女が促すのをリリィは躊躇う事なく足を踏み入れた。
「今の時期にも桃の花が咲いているの?」
旬など既に過ぎているにも関わらず、この離宮を囲む桃の花は元気に咲いている。
「この離宮の桃の木には保護魔法がかけられております故・・・。
ずっと咲いているのです。
この後宮で唯一マドレーヌ様の心を癒しているのが桃の木に御座います。」
年老いた侍女の意味ありげな話を聞いたリリィが桃の木に手を翳した。
「・・・あぁ。なるほど。
よく分かったわ。」
楽しそうに微笑むリリィに年老いた侍女が優しく微笑んだ。
「さぁ、参りましょう。」
年老いた侍女のスピードに合わせゆっくりと歩いていると、離宮の玄関にピンク色の髪をした女性が立っているのが見えた。
「ようこそお越し下さいました。」
そう出迎えるマドレーヌ側妃は、先日と違い髪を飾りつける事なく簡素に束ねていた。
「御招待頂き有難う御座います。」
礼儀正しく挨拶するリリィにマドレーヌ側妃が微笑んだ。
「皇妃様ほどとはいきませんが、甘いものと茶を用意しておりますの。
こちらへどうぞ。」
そこからはマドレーヌ側妃が案内した。
「ごめんなさいね。
この離宮は他と違って人手がないのです。
手入れは怠っておりませんので、ご安心下さい。」
己自ら案内をしている理由を説明するマドレーヌ側妃にリリィは微笑んだ。
「あぁ、だから皇妃様の離宮よりも落ち着くのですね。
見た目の派手さよりも、心使いが洗練されています。」
そう言うと、リリィは廊下に飾られた1輪の花に触れた。
案内された部屋には一人の従者がいた。
後宮内の離宮にいる事から、彼も宦官なのだろう。
目を薄い布で覆っている事から、目が見えていないのだとリリィは推測した。
「よく仕えてくれているのです。
粗相は致しません。」
伺う様なマドレーヌ側妃にリリィは頷いた。
「承知しました。
何か手が必要なら、私の侍女と侍従をお使い下さい。」
すると、目を隠した侍従の男が静かに頭を下げた。
「有難う存じます。」
男は本当に見えないのか?と疑うくらいスムーズに茶の準備をした。
「それでは、御招き頂いた理由をお聞きしましょうか?」
椅子に座り一息ついたリリィがマドレーヌ妃を見つめた。
彼女は、何から話したら良いのか探しているようだった。
あの日・・・皇帝が開いた宴でマドレーヌ妃はリリィを呼び止めた。
周囲に人がいるのも憚らず声を掛けたマドレーヌ妃には、流石のリリィも驚いたものだった。
何も言わずに窓から桃の木を見つめるマドレーヌにリリィは声をかけた。
「時間はあります。
ゆっくり聞きましょう。」
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