87 / 473
桃の涙と覚悟
86
しおりを挟む
この日は良く晴れていた。
昼には早い時間にリリィはアリスとコテツを供に鮮やかなピンク色が映える桃の花が咲き誇る離宮の門の扉を叩いた。
音も立てずに開いた扉の向こうには年老いた侍女がおり、リリィを確認すると優しく微笑み頭を下げた。
「龍の姫巫女リリィ様。
“桃華の宮”へようこそお越しくださいました。
離宮の主人であるマドレーヌ様の元へご案内致します。」
年老いた侍女が促すのをリリィは躊躇う事なく足を踏み入れた。
「今の時期にも桃の花が咲いているの?」
旬など既に過ぎているにも関わらず、この離宮を囲む桃の花は元気に咲いている。
「この離宮の桃の木には保護魔法がかけられております故・・・。
ずっと咲いているのです。
この後宮で唯一マドレーヌ様の心を癒しているのが桃の木に御座います。」
年老いた侍女の意味ありげな話を聞いたリリィが桃の木に手を翳した。
「・・・あぁ。なるほど。
よく分かったわ。」
楽しそうに微笑むリリィに年老いた侍女が優しく微笑んだ。
「さぁ、参りましょう。」
年老いた侍女のスピードに合わせゆっくりと歩いていると、離宮の玄関にピンク色の髪をした女性が立っているのが見えた。
「ようこそお越し下さいました。」
そう出迎えるマドレーヌ側妃は、先日と違い髪を飾りつける事なく簡素に束ねていた。
「御招待頂き有難う御座います。」
礼儀正しく挨拶するリリィにマドレーヌ側妃が微笑んだ。
「皇妃様ほどとはいきませんが、甘いものと茶を用意しておりますの。
こちらへどうぞ。」
そこからはマドレーヌ側妃が案内した。
「ごめんなさいね。
この離宮は他と違って人手がないのです。
手入れは怠っておりませんので、ご安心下さい。」
己自ら案内をしている理由を説明するマドレーヌ側妃にリリィは微笑んだ。
「あぁ、だから皇妃様の離宮よりも落ち着くのですね。
見た目の派手さよりも、心使いが洗練されています。」
そう言うと、リリィは廊下に飾られた1輪の花に触れた。
案内された部屋には一人の従者がいた。
後宮内の離宮にいる事から、彼も宦官なのだろう。
目を薄い布で覆っている事から、目が見えていないのだとリリィは推測した。
「よく仕えてくれているのです。
粗相は致しません。」
伺う様なマドレーヌ側妃にリリィは頷いた。
「承知しました。
何か手が必要なら、私の侍女と侍従をお使い下さい。」
すると、目を隠した侍従の男が静かに頭を下げた。
「有難う存じます。」
男は本当に見えないのか?と疑うくらいスムーズに茶の準備をした。
「それでは、御招き頂いた理由をお聞きしましょうか?」
椅子に座り一息ついたリリィがマドレーヌ妃を見つめた。
彼女は、何から話したら良いのか探しているようだった。
あの日・・・皇帝が開いた宴でマドレーヌ妃はリリィを呼び止めた。
周囲に人がいるのも憚らず声を掛けたマドレーヌ妃には、流石のリリィも驚いたものだった。
何も言わずに窓から桃の木を見つめるマドレーヌにリリィは声をかけた。
「時間はあります。
ゆっくり聞きましょう。」
昼には早い時間にリリィはアリスとコテツを供に鮮やかなピンク色が映える桃の花が咲き誇る離宮の門の扉を叩いた。
音も立てずに開いた扉の向こうには年老いた侍女がおり、リリィを確認すると優しく微笑み頭を下げた。
「龍の姫巫女リリィ様。
“桃華の宮”へようこそお越しくださいました。
離宮の主人であるマドレーヌ様の元へご案内致します。」
年老いた侍女が促すのをリリィは躊躇う事なく足を踏み入れた。
「今の時期にも桃の花が咲いているの?」
旬など既に過ぎているにも関わらず、この離宮を囲む桃の花は元気に咲いている。
「この離宮の桃の木には保護魔法がかけられております故・・・。
ずっと咲いているのです。
この後宮で唯一マドレーヌ様の心を癒しているのが桃の木に御座います。」
年老いた侍女の意味ありげな話を聞いたリリィが桃の木に手を翳した。
「・・・あぁ。なるほど。
よく分かったわ。」
楽しそうに微笑むリリィに年老いた侍女が優しく微笑んだ。
「さぁ、参りましょう。」
年老いた侍女のスピードに合わせゆっくりと歩いていると、離宮の玄関にピンク色の髪をした女性が立っているのが見えた。
「ようこそお越し下さいました。」
そう出迎えるマドレーヌ側妃は、先日と違い髪を飾りつける事なく簡素に束ねていた。
「御招待頂き有難う御座います。」
礼儀正しく挨拶するリリィにマドレーヌ側妃が微笑んだ。
「皇妃様ほどとはいきませんが、甘いものと茶を用意しておりますの。
こちらへどうぞ。」
そこからはマドレーヌ側妃が案内した。
「ごめんなさいね。
この離宮は他と違って人手がないのです。
手入れは怠っておりませんので、ご安心下さい。」
己自ら案内をしている理由を説明するマドレーヌ側妃にリリィは微笑んだ。
「あぁ、だから皇妃様の離宮よりも落ち着くのですね。
見た目の派手さよりも、心使いが洗練されています。」
そう言うと、リリィは廊下に飾られた1輪の花に触れた。
案内された部屋には一人の従者がいた。
後宮内の離宮にいる事から、彼も宦官なのだろう。
目を薄い布で覆っている事から、目が見えていないのだとリリィは推測した。
「よく仕えてくれているのです。
粗相は致しません。」
伺う様なマドレーヌ側妃にリリィは頷いた。
「承知しました。
何か手が必要なら、私の侍女と侍従をお使い下さい。」
すると、目を隠した侍従の男が静かに頭を下げた。
「有難う存じます。」
男は本当に見えないのか?と疑うくらいスムーズに茶の準備をした。
「それでは、御招き頂いた理由をお聞きしましょうか?」
椅子に座り一息ついたリリィがマドレーヌ妃を見つめた。
彼女は、何から話したら良いのか探しているようだった。
あの日・・・皇帝が開いた宴でマドレーヌ妃はリリィを呼び止めた。
周囲に人がいるのも憚らず声を掛けたマドレーヌ妃には、流石のリリィも驚いたものだった。
何も言わずに窓から桃の木を見つめるマドレーヌにリリィは声をかけた。
「時間はあります。
ゆっくり聞きましょう。」
80
お気に入りに追加
1,035
あなたにおすすめの小説
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
修学旅行のはずが突然異世界に!?
中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。
しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。
修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!?
乗客たちはどこへ行ったのか?
主人公は森の中で一人の精霊と出会う。
主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
異世界列島
黒酢
ファンタジー
【速報】日本列島、異世界へ!資源・食糧・法律etc……何もかもが足りない非常事態に、現代文明崩壊のタイムリミットは約1年!?そんな詰んじゃった状態の列島に差した一筋の光明―――新大陸の発見。だが……異世界の大陸には厄介な生物。有り難くない〝宗教〟に〝覇権主義国〟と、問題の火種がハーレム状態。手足を縛られた(憲法の話)日本は、この覇権主義の世界に平和と安寧をもたらすことができるのか!?今ここに……日本国民及び在留外国人―――総勢1億3000万人―――を乗せた列島の奮闘が始まる…… 始まってしまった!!
■【毎日投稿】2019.2.27~3.1
毎日投稿ができず申し訳ありません。今日から三日間、大量投稿を致します。
今後の予定(3日間で計14話投稿予定)
2.27 20時、21時、22時、23時
2.28 7時、8時、12時、16時、21時、23時
3.1 7時、12時、16時、21時
■なろう版とサブタイトルが異なる話もありますが、その内容は同じです。なお、一部修正をしております。また、改稿が前後しており、修正ができていない話も含まれております。ご了承ください。
アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる