73 / 473
混沌なる後宮
72
しおりを挟む
龍の姫巫女への毒殺未遂は一旦消息を見せようとしていた。
張本人であるアブリエル・エマは何が起こっているのか分からなかった。
だって毒とは思っていなかったのだ。
ちょっと変な味のするお薬で少しだけ気分が悪くなると聞いていたのだ。
侍女だって問題ないと言っていた。
話題の龍の姫巫女とやらに立場というものを教えてやろうとしただけだった。
生意気な年下の娘が父の関心を買った事が許せなかった。
父である皇帝は好色である。
今でさえ、自分とあまり歳の変わらない町娘を愛人として後宮に部屋を与え可愛がっているのだ。
幼い頃に知った事実にアブリエル・エマは幻滅したが、父から与えられる愛情は本物だった。
アブリエル・エマが我儘を言えば、父は愛人を放って駆けつけた。
アブリエル・エマが欲しいと言えば父は何でも与えてくれた。
子供の頃から自分が特別だと知っていた。
父には他にも娘達がいるが、そんな事を許されているのはアブリエル・エマだけだった。
母が大好きだった。
皇妃として女性の頂点に君臨する母こそが自分の目標だった。
父に比べて多少は厳しい母であったが、それでもアブリエル・エマには愛情深い母だった。
いつもアブリエル・エマのなす事を認めてくれた。
失敗しても、「しょうがない子。」と頭を撫でてくれた。
この国で1番輝くのは自分であり、そうでなければならなかった。
目の前で澄ました顔で龍を撫でる小娘が現れるまでは・・・。
「リリィ。
もはや茶会どころではない。
離宮へ帰ろう。」
叔父であるディミトリオ・ハクヤがリリィを促すのをアブリエル・エマはボウっと見つめていた。
「皆様、楽しい茶会でした。
またお会いしましょう。」
煌めく白い髪を靡かせて立ち上がったリリィが片付けられていないティーカップにクルクルと指を回すと、たちまちティーカップは直りプカプカと浮きながら
移動するとアブリエル・エマの真ん前に置かれた。
「楽しい会話を有難う。」
颯爽と去るリリィの後ろ姿を見送り、直ったティーカップに目を落とすと、中には真っ黒に染まった百合の花があった。
「キャー!!」
思わず立ち上がったアブリエル・エマに皇妃は寄り添うと恐ろしいモノを見るように、今までリリィが座っていた椅子を見つめたのだった。
「・・・龍の姫巫女。」
「何をしたんだ?」
背後から聞こえる悲鳴に眉を顰めたディミトリオ・ハクヤにリリィはケラケラと笑った。
「珍しい紅茶のお返し♪」
「・・・そうか。」
2人が楽しそうに皇妃の離宮を後にしようとした時だった。
「リリィ様。」
そこには何かを問いた気なマドレーヌ側妃が立っていた。
ディミトリオ・ハクヤにではなく、真っ直ぐに自分に視線を送るマドレーヌ側妃にリリィは微笑んだ。
張本人であるアブリエル・エマは何が起こっているのか分からなかった。
だって毒とは思っていなかったのだ。
ちょっと変な味のするお薬で少しだけ気分が悪くなると聞いていたのだ。
侍女だって問題ないと言っていた。
話題の龍の姫巫女とやらに立場というものを教えてやろうとしただけだった。
生意気な年下の娘が父の関心を買った事が許せなかった。
父である皇帝は好色である。
今でさえ、自分とあまり歳の変わらない町娘を愛人として後宮に部屋を与え可愛がっているのだ。
幼い頃に知った事実にアブリエル・エマは幻滅したが、父から与えられる愛情は本物だった。
アブリエル・エマが我儘を言えば、父は愛人を放って駆けつけた。
アブリエル・エマが欲しいと言えば父は何でも与えてくれた。
子供の頃から自分が特別だと知っていた。
父には他にも娘達がいるが、そんな事を許されているのはアブリエル・エマだけだった。
母が大好きだった。
皇妃として女性の頂点に君臨する母こそが自分の目標だった。
父に比べて多少は厳しい母であったが、それでもアブリエル・エマには愛情深い母だった。
いつもアブリエル・エマのなす事を認めてくれた。
失敗しても、「しょうがない子。」と頭を撫でてくれた。
この国で1番輝くのは自分であり、そうでなければならなかった。
目の前で澄ました顔で龍を撫でる小娘が現れるまでは・・・。
「リリィ。
もはや茶会どころではない。
離宮へ帰ろう。」
叔父であるディミトリオ・ハクヤがリリィを促すのをアブリエル・エマはボウっと見つめていた。
「皆様、楽しい茶会でした。
またお会いしましょう。」
煌めく白い髪を靡かせて立ち上がったリリィが片付けられていないティーカップにクルクルと指を回すと、たちまちティーカップは直りプカプカと浮きながら
移動するとアブリエル・エマの真ん前に置かれた。
「楽しい会話を有難う。」
颯爽と去るリリィの後ろ姿を見送り、直ったティーカップに目を落とすと、中には真っ黒に染まった百合の花があった。
「キャー!!」
思わず立ち上がったアブリエル・エマに皇妃は寄り添うと恐ろしいモノを見るように、今までリリィが座っていた椅子を見つめたのだった。
「・・・龍の姫巫女。」
「何をしたんだ?」
背後から聞こえる悲鳴に眉を顰めたディミトリオ・ハクヤにリリィはケラケラと笑った。
「珍しい紅茶のお返し♪」
「・・・そうか。」
2人が楽しそうに皇妃の離宮を後にしようとした時だった。
「リリィ様。」
そこには何かを問いた気なマドレーヌ側妃が立っていた。
ディミトリオ・ハクヤにではなく、真っ直ぐに自分に視線を送るマドレーヌ側妃にリリィは微笑んだ。
90
お気に入りに追加
1,035
あなたにおすすめの小説
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
修学旅行のはずが突然異世界に!?
中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。
しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。
修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!?
乗客たちはどこへ行ったのか?
主人公は森の中で一人の精霊と出会う。
主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜
甲殻類パエリア
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。
秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。
——パンである。
異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。
というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。
そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる