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老師との訓練という名の戯れ

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「何だとっ!!
 大公殿が帰還する?!
 しかも、龍の姫巫女を連れてだとっ?」

 王宮の一室で1人の男が慄き立ち上がり、座っていた椅子が倒れた。

「はい。
 船から飛び立った伝書鳥からの報告です。」

 龍の姫巫女と聞き高揚している部下を尻目に男は苦虫を噛んだ顔を隠した。

 《なんて事だ。今度こそ邪魔な大公は死ぬと思っていたのに・・・。
 陛下を焚き付けて“龍王島”に送り込んだというのに、生きているだと?
 龍の姫巫女まで連れているなど・・・フンっ。どうせ偽物だ。》

 男・・・宰相ムク・フラン侯爵は己の心を納得させ部下に指示した。

「私は陛下へ報告する。
 直ちに迎えの準備を・・・いや、迎えも私が参ろう。
 お前達は騒ぎにならぬ様に話を広げるでない。」

「はい。
 承知致しました。
 姫巫女様をお迎えする準備はいかが致しましょう。」

「・・・私が手配いたそう。
 余計な事はするな。
 良いな。」

 宰相は部下を下がらすと顔を醜く歪ませた。

「偽の龍の姫巫女・・・これを利用するのも一興か?
 あの大公は本当に邪魔ばかりをする。」

 宰相は歪ませた顔を平常に戻し執務室を後にするのだった。

 ________

「リリィ。
 寂しいか?」

 離れて行く“龍王島”をずっと見つめているリリイにディミトリオ・ハクヤは声をかけた。

「別に・・・
 いつか、島を出る日が来る事は分かっていたもの。
 心の準備はしてたから、寂しいとは思っていないわ。」

「そうか。
 それにしても美しい光景だ。」

 “龍王島”に掛かる大きな虹の下で沢山の龍が飛んでいる。
 何故、来る時に見えなかったのだろう。
 
 ーーーそこにあるものを見ようとしないから

 以前のリリィの言葉を思い出しディミトリオ・ハクヤは今まで自分は現実を見ようとしていなかったのだと悟った。

「私にとっては当たり前の光景だけどね。」

「その当たり前を教えてくれて有難う。」

「何それ。変なの。」

「・・・ところでリリィ。」

「何?」

「・・・船は嫌いか?」

 問答を繰り返していたディミトリオ・ハクヤは白銀の龍ルーチェに腰掛けユラユラと揺れるリリィを見つめた。

 リリィは船に乗船して1度して看板に足をつけていないのだ。
 
「・・・別に。」

 顔を背けるリリィにディミトリオ・ハクヤは思わず微笑んだ。
 それに気づいたのかリリィは顔を顰めた。

「別に怖いんじゃないわよ。
 しっかりした知恵者と技術者が作り上げた代物なら安心だけど、不確かな者が設計した物は信頼してないだけ。」

 ツンっと顔を背けるリリィは皆が生暖かい目で己を見つめている事に気づいていない。

 小さくなっていく“龍王島”の代わりにロンサンティエ帝国の影が大きくなっていく。
 この素直でない可愛い娘・・・リリィをディミトリオ・ハクヤは、これからは自分が守るのだと覚悟していた。

 《私は、もう逃げない。》

 そうして、一同はいざ、帝国へ。
 
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