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老師との訓練という名の戯れ

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「船長っ!船長っ!
 念の為に砂浜に近づかなくて本当に良いんですか?」

 船員の男が発する騒がしい声に船長は顔を顰め、吸っていたタバコの灰を灰皿に弾いた。

「うるせぇなぁ。
 良いんだよ。よく考えてみろ。
 こないだ乗せた男は大公だぞ。
 大公閣下様様だ。
 お供も貴族のボンボン達さ。
 温室育ちの奴らが曰く付きの無人島で生き残れると思うか?」

 船長は鼻で笑うと再びタバコを加えると、どうでも良いように呟いた。

「大体な。
 宰相様にも、無理に連れて帰らなくて良いって言われてるんだよ。
 良いか?
 俺は、お上の事情に首突っ込む程、バカじゃねっての。」

「でも、船長。
 見て下さいよ。
 島に虹の橋が掛かってますぜ。
 昔、婆ちゃんが言ってたンスよ。
 “龍王島”には古来の龍が住んでいて、龍の巫女が島を出る時に虹の橋が掛かるって。」

 船長は舌打ちをした。
 海には多くの逸話が語り継がれる事がある。 
 中でも海沿いにある漁村には古くからの伝承が色濃く残っている地域があるのだ。
 この男は漁村生まれだった。

「馬鹿野郎!
 何を迷い語りをしてんだよ。
 お前だって龍なんて見た事ないだろうが!」

「でも、婆ちゃんは龍の影を見た事があるって。」

「テメーの耄碌したババァの戯言に惑わされてんじゃねー!
 見てみろ。
 こんなに穏やかな海は珍しいぞ。
 大公だって、あの嵐の日にくたばったに違えねぇ。
 宰相様に約束の日に姿を見せなかったって報告すりゃ、こっちは大金がガッポリよ。
 テメーもくだらん事を吐かしている前に仕事しろ。
 帰りに吐いても知らねーぞ。」

 船員の男に怒鳴る船長の言葉に他の船員達もせせら笑った。

「・・・でも、婆ちゃんが。」

「まだ言うかっ!」

 納得しない船員の男を殴り飛ばそうとした時だった。

ガクンッ

 船が“龍王島”へと前進し始めたのだ。

「おい!誰だ!
 俺の命令も聞かずに船を動かしてる奴は!」

 怒れる船長に船員達が首をブンブンと横に振る。
 件の男ですら船長の目の前にいるのだから犯人でない事は分かる。

「せっ船長!
 船が勝手に!!」

 舵輪を握る船員の悲鳴めいた声に船長は慌てて近づいた。

「どけっ!」

 船長は怯える船員を弾き飛ばし、自ら舵輪を握るもビクともしない。

「クソっ。
 何だ?
 何かに引き寄せられるように舵輪が全く動かん。」

「ぁぁぁ・・・。
 婆ちゃんの言った通り、あの島には龍神様がいなさるんだぁぁ。」

「うるせー!
 テメーが余計な事を言うから、何かを引き寄せたんだ。
 おい、海流に捕まれたかもしれん。
 抜け出すぞ!
 急げ!」

 事故とは無縁と思われた穏やかな風の日。
 
 パニックになり騒ぐ船長と船員を乗せた船は一路、“龍王島”へと向かっていく。
 
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