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皇帝の弟殿下の大いなる溜息
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しおりを挟む[ーーー情けなくとも、無様でも私は貴方に生きてほしい・・・。]
美しいゴールドピンクの髪をした女が涙ながらに縋ってくる。
パチパチッ
抱きしめようと手を伸ばした、その瞬間にディミトリオ・ハクヤは焚き火の音で目が覚めた。
「・・・夢か。
久しぶりに見たな。」
起き上がったディミトリオ・ハクヤを侍従のクレイが心配そうに顔を覗き込んだ。
「主様・・・うなされておられましたが、大丈夫ですか?」
「大事ない。」
微笑むディミトリオ・ハクヤにクレイが飲み水を差し出した。
「おはようございます。
今は朝日が昇り始めたところです。
昨日と違い、快晴でございます。」
「そうか。
スサとセキエイはどうした?」
「周囲を見回っています。
雑炊の準備が出来ています。
召し上がりますか?」
「2人が戻ったら共に貰おう。
先に着替えを済ませる。」
「畏まりました。」
そうして準備を整え、2人の護衛が帰ってくるとクレイの作った雑炊を口にしたディミトリオ・ハクヤは洞穴を出て青い空を見上げた。
「良い天気だ。」
「はい。
昨日の嵐の様な雨は何だったのかと思わずにはいられません。」
今日こそ、この“龍王島”を入念に探索しなければならない。
準備を終えたクレイと共にディミトリオ・ハクヤは海を見渡した。
遥か向こうに故郷が薄らと見える。
昨日まで彼方にいたのに不思議な感じがした。
「海も美しいな。」
正にコバルトブルーの海に思わず溜息を吐く。
その時だった。
「そうでもありませんよ。
見慣れれば、もっと美しい日があると気づきます。」
聞き覚えのない声にディミトリオ・ハクヤとクレイが驚きながら振り返ると、砂浜に見知らぬ男と女が立っていた。
「大公閣下っ!」
「何者だっ!」
セキエイとスサがディミトリオ・ハクヤとクレイを庇うように武器に手をかけると男と女は顔を見合わせて首を傾げた。
「はてさて、他人の地に無断で足を踏み入れているのは貴方達です。
本来、何者だと聞くのはこちらだと思うのですが?」
そう目を細める女に対し男は感情を見せない。
ハッとしたディミトリオ・ハクヤはスサとセキエイの肩に手をやり落ち着かせると前に出た。
「失礼した。
確かに貴殿らの言う通りだ。
我らの方が礼儀を忘れていた。
許していただきたい。」
すると再び男と女は顔を見合わせるとコクンと頷いた。
それ以上、話す気のなさそうな2人にディミトリオ・ハクヤは問いかけた。
「この地にお住まいの龍王様にお会いしたく参った。
私はロンサンティエの血脈に連なる者。
貴殿らは、こちらにお住まいか?
龍王様に取り継ぎ頂けるだろうか。」
クレイや2人の護衛もピクリとも動く事が出来ずにいる中、伺うようなディミトリオ・ハクヤを前に2人の男女は観察するように見つめ続けた。
「『ロンサンティエの血を受け継ぐ者を迎えよ。』
龍王のお言葉です。」
女が口を開いた。
「ロンサンティエの血を受け継ぐ者をお迎え致します。
ご案内しましょう。」
男が口を開いた。
ディミトリオ・ハクヤ・ロンサンティエは無駄な争いなく“龍王島”に受け入れられた事に、ただただ安堵するのだった。
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