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皇帝の弟殿下の大いなる溜息
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船は白波の飛沫をあげながら、真っ直ぐと未知なる“龍王島”に向かっていた。
皇帝の勅命を受けたディミトリオ・ハクヤ・ロンサンティエは準備も早々に少数の部下を連れて王宮を出発していた。
「主様。危険です。
もう少し奥にいらして下さい。」
「あぁ。わかった。」
船の端に腰掛けていたディミトリオ・ハクヤに焦ったような声を掛けたのは部下であり侍従のクレイだった。
皇帝として即位した兄が行った最初の仕事は人事の見直しだった。
他の兄弟達が小国や領地を貰う中、ディミトリオ・ハクヤだけは王宮に留め置かれ、後宮の管理人としての役目を与えられた。
一国・・・ましてや皇帝の第3王子だった男が宦官となったのはこの時だった。
新皇帝の采配には多くの者が驚き、口さがない者はディミトリオ・ハクヤを能無しとコケ下ろしもした。
大公という大それた地位を与えられたが、後宮の管理人には意味のない無用なものだ。
「島に着く前に何かあったら如何するのです。」
小言を言うクレイにディミトリオ・ハクヤは微笑した。
「クレイ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」
「しかし、今回の任務はいつもの“陛下の我儘”とは毛色が違います。
よもや、何か罠でも仕掛けているやも・・・。」
クレイは不満を隠そうとせずに文句を言い始めた。
ディミトリオ・ハクヤは、暫く聞き耳を立てた後に部下を嗜めた。
「クレイよ。
ここが海の上だといっても、誰が聞き耳を立てているか知れないよ。
私はお前だけは失いたくないんだ。
申し訳ないが我慢しておくれ。」
「何を申されます。
主様が謝られる必要はないのです。
私は主様が向かわれる場所には共に参る所存。
主様は、ただ命令を下されば良いのです。
余計な事を口にしました。申し訳ございません。」
そう胸を張ったクレイは、最後まで皇帝の事を悪様に言いたいのを主の手前、口を噤む事にしたようだ。
ディミトリオ・ハクヤは、自分の代わりに怒るこの部下を殊の外気に入っていた。
7歳の頃より幼くしてディミトリオ・ハクヤに使えるクレイは今は24歳の若者である。
本来であれば、もっと華々しい生き方があったやも知れぬクレイであったが今も望んでディミトリオ・ハクヤの元にいる。
優秀なクレイは後宮という荒波で暮らすディミトリオ・ハクヤにとって実に心強い部下であった。
例え、主人であろうと目上の者であろうと物怖じしないクレイには随分と助けられている。
「主様っ!!」
クレイの焦った声に振り返れば、さっきまで晴天だったはずの空にどんよりとした雲が広がっている。
その雲も、どうやら“龍王島”からやってきている様だ。
みるみる間に海が荒れ果てていき、風が船体を大きく揺らすと目が開けられない強い雨が襲ってきた。
「急いで島に向かうように伝えて参ります。
主様は、どうか安全を確保なさって下さい。」
クレイが船長の元に向かって行くのを振り向きもせず頷いたディミトリオ・ハクヤは誰にも聞こえもしない祈りを口にした。
「・・・龍王よ。
どうか、拒まないでくれ。
私は帰らねばならぬのだ。
絶対に帰らねば・・・。」
ディミトリオ・ハクヤの願いが届いたのかは定かでないが、その後船は“龍王島”の砂浜に辿り着いたのだった。
皇帝の勅命を受けたディミトリオ・ハクヤ・ロンサンティエは準備も早々に少数の部下を連れて王宮を出発していた。
「主様。危険です。
もう少し奥にいらして下さい。」
「あぁ。わかった。」
船の端に腰掛けていたディミトリオ・ハクヤに焦ったような声を掛けたのは部下であり侍従のクレイだった。
皇帝として即位した兄が行った最初の仕事は人事の見直しだった。
他の兄弟達が小国や領地を貰う中、ディミトリオ・ハクヤだけは王宮に留め置かれ、後宮の管理人としての役目を与えられた。
一国・・・ましてや皇帝の第3王子だった男が宦官となったのはこの時だった。
新皇帝の采配には多くの者が驚き、口さがない者はディミトリオ・ハクヤを能無しとコケ下ろしもした。
大公という大それた地位を与えられたが、後宮の管理人には意味のない無用なものだ。
「島に着く前に何かあったら如何するのです。」
小言を言うクレイにディミトリオ・ハクヤは微笑した。
「クレイ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」
「しかし、今回の任務はいつもの“陛下の我儘”とは毛色が違います。
よもや、何か罠でも仕掛けているやも・・・。」
クレイは不満を隠そうとせずに文句を言い始めた。
ディミトリオ・ハクヤは、暫く聞き耳を立てた後に部下を嗜めた。
「クレイよ。
ここが海の上だといっても、誰が聞き耳を立てているか知れないよ。
私はお前だけは失いたくないんだ。
申し訳ないが我慢しておくれ。」
「何を申されます。
主様が謝られる必要はないのです。
私は主様が向かわれる場所には共に参る所存。
主様は、ただ命令を下されば良いのです。
余計な事を口にしました。申し訳ございません。」
そう胸を張ったクレイは、最後まで皇帝の事を悪様に言いたいのを主の手前、口を噤む事にしたようだ。
ディミトリオ・ハクヤは、自分の代わりに怒るこの部下を殊の外気に入っていた。
7歳の頃より幼くしてディミトリオ・ハクヤに使えるクレイは今は24歳の若者である。
本来であれば、もっと華々しい生き方があったやも知れぬクレイであったが今も望んでディミトリオ・ハクヤの元にいる。
優秀なクレイは後宮という荒波で暮らすディミトリオ・ハクヤにとって実に心強い部下であった。
例え、主人であろうと目上の者であろうと物怖じしないクレイには随分と助けられている。
「主様っ!!」
クレイの焦った声に振り返れば、さっきまで晴天だったはずの空にどんよりとした雲が広がっている。
その雲も、どうやら“龍王島”からやってきている様だ。
みるみる間に海が荒れ果てていき、風が船体を大きく揺らすと目が開けられない強い雨が襲ってきた。
「急いで島に向かうように伝えて参ります。
主様は、どうか安全を確保なさって下さい。」
クレイが船長の元に向かって行くのを振り向きもせず頷いたディミトリオ・ハクヤは誰にも聞こえもしない祈りを口にした。
「・・・龍王よ。
どうか、拒まないでくれ。
私は帰らねばならぬのだ。
絶対に帰らねば・・・。」
ディミトリオ・ハクヤの願いが届いたのかは定かでないが、その後船は“龍王島”の砂浜に辿り着いたのだった。
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