溜息だって吐きたくなるわっ！〜100賢人仕込みの龍姫は万年反抗期〜

皇帝の弟殿下の大いなる溜息

1

　
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　かつて龍は人間ともにあった。

　弱く群れる事で生活する人間達。
　龍達は勤勉でありながら不完全である彼等に愛情を抱いていた。

　龍の力を借りて人間達は繁栄し豊かな生活を手に入れた。　
　その生活に慣れきった人間達は次第に努力を怠たり、傲慢にも龍を支配しようと試みた。
　流石の龍達も、それには呆れ果て人間達への干渉を止め、寝ぐらの島に篭ってしまった。
　不満が募った欲深き人間達は龍が酒で眠りについたのを見計らい、島から1匹の龍を連れ出した。

　それは、人間達にとって悲惨な末路にしかなり得ない選択だった。

　島より連れ出された龍は力を酷使され、次第に心を失い黒き闇に覆われて黒龍なった。
　誇り高き龍達は己の一族から闇堕ちが生まれた事に嘆き悲しんだ。
　龍の逆鱗に触れた人間達は、終ぞ滅びゆく国々を見つめる事しかできなった。

　豊かな生活から一変し、荒ぶる天候や容赦ない日照り、作物も取れずに疲弊してゆく人間社会。
　人間達は互いに食べ物を奪い合い、家族や友人と言えども互いを信用出来ずに疑心暗鬼に苛まれる始末だった。

　このまま人間達は滅んでいくしかない。
　どうしようもない年月が過ぎ去った。

　そんなある日、1人の男が現れた。
　その男は単独で龍の島に赴き、龍に現在の人間達の有り様を伝えた。
　許しを乞う男と言葉を交わした龍達は、人間達の悲惨な現状を嘆いた末に怒りを収める事にした。

　ただし、もう自ら人間達と関わるつもりのない龍達は、代理として1人の巫女を紹介した。
　その巫女は龍気が溢れる宝樹を植え育てる事が出来ると言う。
　また、龍達は男とその子孫以外が島に近寄る事を禁じた。
　
　男は心を通わせた巫女と共に故郷に戻り、宝樹を守りながら地域の復興に勤しんだ。

　宝樹の恩恵から男の住む村は野菜や果物などの実りに恵まれ、男の元には人が集まるようになった。
　救世主となった男は領主となり、数年後には国を起こした。

　その国は龍に愛された国“ロンサンティエ”と名付けられ、繁栄を極めたという。
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　初代王が崩御して3000年。

　ロンサンティエは龍の使徒としての役割を掲げて国を大きく発展させ帝国へと成長させていた。

　しかし、問題がないわけではない。
　龍の巫女を失って久しいロンサンティエは龍の宝樹の恩恵を消えていく危機に直面していたのだ。
　
　ーーーそして、今。
　
　１人の男が、これから挑む未知なる島を、どうしようもなく虚しい想いで見つめていた。
　何のために船を使ってまで島に向かっているのかは十分に承知していたが、死に行く未来を受け入れるには納得など出来るわけがなかった。

「龍王島か・・・。」

　男は、ほんの少し・・・指で摘める位の期待を込めて今日の朝の出来事を思い出しては大きな溜息を吐いたのだった。

　
　ーーーこの日の早朝。

　ロンサンティエ帝国の誇る王宮の長い廊下に男の姿があった。

　男は帝国の歴史が刻まれた壁を見上げ、込み上げる苛立ちと虚しい疲れに襲われ溜息を吐いていた。

　男の名はディミトリオ・ハクヤ・ロンサンティエ。
　前皇帝の3番目の息子にして、現皇帝の弟であり後宮の雑事の一切を取り仕切る宦官でもあった。
　男は今、運命の岐路に立たされようとしていた・・・。

　それもこれも、兄である皇帝の一言から始まっている。

『龍王島から巫女を所望する。』

　恐らく、自分はこれから龍住む未知なる島に向かわされる事になるだろう。
　危険と分かっていても皇帝は弟を向かわせようと言うのだ。
　兄に嫌われている事は自覚していた。

　ディミトリオ・ハクヤ・ロンサンティエが溜息を吐くのも無理からぬ事だった。

　初代王が崩御してから3000年。

　人間は再び、堕落の一途を辿っていた・・・。