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はじまりの終わりと、はじまりの始まり

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 5年前を思い出しながら歩いていたヴァルトは目的の部屋に着くと大きな息を吐いた。

カチャ

「おはよう。」

 いつものように、返事のない相手に声をかける。

 恐らく、執事のクリストフがやったのだろう。
 開かれたカーテンと窓から、爽やかな風と優しい光が部屋に入り込んでいた。

 ヴァルトは窓枠に腰を落とすとポーレットの街を見下ろした。

「今日も良い天気だよ。 
 あの頃と、全く変わらない。」

 その部屋のベットで1人の青年が深い眠りについていた。
 青年の枕元には真っ白な小さな子狼が丸る様に寄り添って目を瞑り、こちらも起きる気配がない。

「お前に話したい事が沢山あるよ。
 聞きたい事も山ほどある。
 一体、何があったんだ?
 ふぅ・・・。
 あれは、お前と別れて1年経った頃の昼下がりだった・・・。」

 目を細めたヴァルトは再び窓の外に視線を向けた。

__________

 ーーーイオリと別れて1年経った頃。

 ポーレットの街は“エルフの里の戦士”との戦いの傷から回復しつつあった。

 大きな穴が開いた壁門や破損した家や店。
 それらを治す財源を確保するのに尽力したのはホワイトキャビンのバートだった。

 当然、ポーレット公爵家からも支出するべき事だったが《売り上げは公共事業に活用する。》ホワイトキャビンを立ち上げた時にイオリが言った言葉を忠実に実行するバートからは信念すら感じる程だった。

「ポーレットの被害は暫定的でしょうが、他領ではもっと大きな損害が生まれている可能性があります。
 その際に、望まぬ内に奴隷が増えてしまう事に準備をしていかなければなりません。
 公爵様には、その時にお役立ち頂きたい。」

 結果、バートの予想は当たった。
 丹精込めた畑を焼き払われた農民一家。
 怪我をして働けなくなった冒険者。
 混乱に乗じた詐欺の被害にあった老夫婦。
 両親が犠牲になった孤児達。

 テオルドは奴隷になるのを望まない全ての者達の受け入れを表明した。
 殺到すればポーレットも大変な目に遭うと危惧されていたが、そんな事にはならなかった。

 ダグスクの領主オーウェン・ダグスクやイルツクの領主アナスタシア・ギロック女伯爵などポーレット公爵であるテオルドの考えに賛同した各地の貴族達が奴隷落ちした者達を受け入れたのだ。

 その中には、少年伯爵であるクロワ・オンリールの名前もあったと言う。
 悪名高くなってしまったオンリール領において必死に耐えていたクロワも貴族としての心得を忘れずに努力を重ねていた。

 アースガイルは国王アルフレッド・アースガイルの陣頭指揮の元、戦いの傷を癒していた。

 その最中の事だった。
 “明けない魔の森”の深層部に位置する場所から一筋の光の柱が現れたのは・・・。
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