続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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はじまりの終わりと、はじまりの始まり

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コツ コツ コツ
 
 ゆっくりと屋敷の廊下を歩く男は窓から裏庭を見下ろし微笑んだ。

 この裏庭こそ、父・テオルドと母・オルガの宝物だった。

 季節によって様変わりする裏庭には男も癒される事が多い。

「・・・はぁ・・・。」

 男・・・ヴァルトは大きな溜息を吐いた。
 その裏庭を造った男・・・イオリこそがヴァルトの溜息の原因だった。 

「5年か・・・。」

 イオリがダークエルフとの戦いを終えて5年の月日が経っていた。

 ヴァルトは、あの日の事を忘れる事が出来ずにいた。

 禍々しい闇に覆われ苦しそうな表情でダークエルフの剣を掴むイオリの姿を・・・。
_________

 ーーー何も出来ない。

 ヴァルトは自分が無力であると分かっていた。
 事は神の力を得た者同士の戦いであり、普通の人間であるヴァルトが手を出す隙間すらない。
 それでも、歯痒い思いはどうする事も出来なかった。

 あの日、ヴァルト達はダークエルフに対峙するイオリを見送る事しか出来なかった。
 闇の力に抗っていたイオリが渾身の力を込めた瞬間だった。
 闇から眩い光が漏れ出し、ダークエルフの剣が粉々に散ったのをヴァルトは見た。

 ーーーやった。

 そう思った瞬間だった。
 イオリを包むダークエルフの影がみるみる間に膨張して、闇の力が暴発したのだ。
 弾ける瞬間だった。
 一瞬で景色が変わり、遠くで爆発音がした。
 エルフのナギのスキルによってヴァルト達は“明けない魔の森”の外に瞬間移動したのだ。
 
 ーーーイオリが言ったから。
    危なくなったら移動しろって。

 大好きなイオリの言いつけを守ったナギがポロポロと涙を流すのを、ヴァルト達は責める事なく労った。

 イオリが無事なのか、ダークエルフとの勝負がどうなったのか、何も分からないままヴァルト達は一度ポーレットに戻る事にした。

 
 その頃、ポーレット・・・いや、世界の至る所は危機に陥っていた。

 空を覆った分厚い雲が世界中に現れ、雷が落ちた場所には“エルフの里の戦士”が何人も現れたのだ。

 1人で一国の軍を相手に出来ると言われる“エルフの里の戦士”の登場に各国は戦闘を余儀なくされた。

 アースガイル国のポーレットも例外はなく、5人もの“エルフの里の戦士”に襲われたのだ。

 テオルド・ドゥ・ポーレットを筆頭に公爵家は騎士を前線に送り、冒険者ギルドは冒険者達を街の防衛に置いた。

 帰路に着いたヴァルト達もイオリの心配を胸に、すぐ様“エルフの里の戦士”との戦いを余儀なくされたのだった。

 街の住人達は、ポーレット公爵家に集まりオルガ夫人の支持の下、戦いに出た騎士や冒険者達を支えた。

 当初、怒涛の如く襲ってくる“エルフの里の戦士”との戦いは善戦するも、次第に押し込まれていく事になる。

 冒険者達の中には悲鳴を上げて逃げ出す者が現れた。

 防衛戦が崩れる!!

 悲惨を覚悟したヴァルト達であったが、“エルフの里の戦士”の動きが唐突に止まった。

 頭を抑え、苦しみ始めた“エルフの里の戦士”を前に戸惑う騎士や冒険者達であったが、ポーレット公爵・テオルドやヴァルト達は分かっていた。

 ーーーイオリだ。
    イオリが何かしたんだ。

 痛みに耐えかねた“エルフの里の戦士”達が次々と姿を消し戦線離脱するのを彼らは見送った。
 もはや、危険は去ったのだと・・・。
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