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影と黒 〜愛されし者達の対峙〜

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 真っ青な空の下に新緑の草原が果てしなく続く。
 
 いつもと違うと言えば、無数に囲む扉がない事だろう。
 そんな先程とは違う穏やかな空間にイオリは溜息を吐いた。

『イオリーーー!!』

 真っ白な毛玉がイオリの元に飛び込んできた。

「ゼンっ。
 良かったぁぁ。
 会えたぁぁ。」

 小型犬程の大きさしかないゼンがグイグイとイオリの胸に頭を押し付けてきた。

『何処行ってたの?
 何してたの?
 大丈夫?』

 心配そうなゼンに答えるようにイオリは盛大に撫で回した。

「俺は大丈夫。
 ゼンこそ、こんなに小さくなっちゃって・・・。
 今まで彼の所にいたんだよ。」

 ゼンはイオリの腕の中で身を捩ってリュオンと共に佇む1人のエルフの男を視界に入れた。

『・・・誰?』

 首を捻るゼンの耳にイオリは囁いた。

「ルミエール。」

 それを聞き、ギョッとしたゼンはイオリの腕から飛び降りると、ルミエールを囲む様にゆっくりと円を描きながら回り始めた。

 野生の勘なのか、腰が落ちている事で警戒心が見て取れる。

『何だ。獣。』

 憮然と見下ろすルミエールに声を掛けられゼンはピョンッと後に飛び退いた。

『・・・ゼっ・・・僕・・・ゼンだもん。』

 それだけを言うとゼンはイオリの元に逃げ帰り、再び胸に飛び込んだ。

『フンっ。
 あれが神獣とは情けない事だ。
 貴様の見る目が衰えたか?』

 ギロリとリュオンを睨む目には、最初の頃の怖さはない。

『貴方みたいな問題児を送り出したのです。
 反省するのは当たり前でしょう。
 転生か転移で記憶を持たせるかどうかも変えました。
 新しい世界に送ったのに恨み辛みでメチャクチャにされたくありませんからね。』

『フンッ!』

 リュオンの嫌味にルミエールは気まずそうに鼻を鳴らして顔を背けた。

『大体において、私は貴方に1番強い力を与えました。
 貴方の剣が相沢さんの力に負けた理由は分かりますか?』

『負けた理由・・・。』

 考え込むルミエールにリュオンは優しく微笑み、ゼンと戯れるイオリを見つめた。

『相沢さんの世界・・・生まれた国では刀と呼ばれる武器があります。
 以前の“愛し子”である十蔵さんも刀を武器としていました。
 その武器の剣先にははがねと呼ばれる固い金属が仕込まれているそうです。
 彼らは、それを人にも例えた。
 心に釼がある・・・心がしっかりした者こそが強き者であると。
 相沢さんは柔和に見えて、頑固で真っ直ぐな人です。
 相手が誰であろうと、己の決めた事にブレる事はないんです。』

『心・・・。
 我は、心が弱いと?』

『自分の心を守ろうとした貴方には貴方の覚悟があったのでしょう。
 それでも、過去に囚われている貴方より相沢さんの方が頑固だったと言う事でしょうね。』

 ルミエールはニコニコと笑うイオリを見つめた。
 そうして大きな溜息を吐いた。

『我の負けという事か・・・。』

 負けを認めたルミエールは思っていたよりも心が軽い事に安堵した様だった。
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