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影と黒 〜愛されし者達の対峙〜
772 〜その魂が陰るまで⑤〜
しおりを挟むまさに花天月地と呼ばれる月夜に1組のエルフの夫婦の元に玉のように美しい男の子が産まれた。
森の青葉に溜まった雫が月明かりに反射して美しい。
自然を愛するエルフにとって楽園と呼ばれる里は喜びに包まれていた。
長命のエルフ達であったが、逆に子に恵まれる事が少ない種族でもあった。
この日の命の誕生は里を上げての待望の慶事だった。
生まれながらに精霊に愛された男の子は光を意味する“ルミエール”と名付けられた。
可愛らしいルミエールは、皆に愛されてスクスクと育っていった。
年月が経ったある日の事だった。
ルミエールが里長に呼ばれた。
エルフには、神の信託を受けたら一人前という決まりがあった。
すなわち、遠出や危険な狩りは信託を受けずに行ってはいけないのだ。
だから、幼少のルミエールも里に近い野山を駆け巡り、イチジクや木苺などを採って過ごしていた。
本来なら、信託の時期はルミエールにとっては、もっと先のはずだった。
それでも、教えた事は一度で覚え、凄い速さで成長していくルミエールに里の大人達は未来のリーダーとしての素質に期待していたのだ。
ルミエールは幼さの中に、どこか達観した目で物事を捉える子供だった。
里長に呼ばれた理由も分かっている。
里長が祝詞を唱えると祭壇に跪いたルミエールに虹色の光が降り注いだ。
眩い光の出現にエルフ達が大喜びで盛り上がった。
立ち上がった少年の目が陰っている事など誰も気づかなかった。
この時、ルミエールの目に映っていたのは記憶の奥底に眠っていた見窄らしく小さく蹲る前世の自分の姿だった。
忘れていたはずの憎悪が沸々と湧き上がってくる。
信託の中、神であるリュオンの声が聞こえた。
『新しい人生を送っているのだから過去を悲観し誰かを恨んではいけない。』
そんなのは綺麗事だとルミエールは思った。
あの時の哀れな自分を無かった事には出来そうにない。
徐々に記憶が蘇ってくるルミエールの胸が苦しく締めるけられていく。
その時だった。
奇跡の子 神に愛された子
里長が彼が忌み嫌う言葉を使い、里の者達にエルフの将来の安泰に喜びの声を上げたのだ。
その後も里長や里の者達からの賛辞が続いた。
両親は名誉な事だと涙を流して喜んだ。
そんな中、ルミエールは体の底からの震えを止めるのに必死だった。
握りしめた手には後世に残る事になった剣があった。
みるみる間に力が漲ってくる様だった。
ルミエールの心をドス黒い影が纏わりついてくる。
ーーー二度と・・・もう二度と誰にも利用などされはしない。
今度は自分が利用してやるのだ。
それから10年後、ルミエールは世界を我が物にすると声高に言い放ち、多くの種族からの反感を買った。
同胞のエルフの中にも離反者が現れるも、ルミエールの決意を変える事はない。
ーーー跪け、乞え、崇めろ!!
我が名はルミエール。
神より力を授けられた世界の王だ!
大戦争の始まりは、こうして起こった。
__________
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