続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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影と黒 〜愛されし者達の対峙〜

768 〜その魂が陰るまで①〜

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 その小さい魂は生まれ落ちた瞬間から困難を極めていた。

 母と呼ぶべき人は彼が生まれたその日に命を落とした。
 父は取り残された泣き喚く肉塊をどうするべきか悩んだ。
 結果、労働力を求めた父は、すぐに新たな妻を得た。
 新たな母は彼の存在が疎ましくて堪らなかった。

 彼が生を受けて3年経ち、父とその妻は子宝に恵まれていた。
 幸せな家庭の中に彼の居場所は既にない。

 父の手前、その妻は邪魔な彼にも辛うじての食事を与えるが自分の子供の様に慈しみはしなかった。

 父でさえ3年経っても体の大きくならない彼を疎ましく思う様になっていった。

 狩りや畑と仕事はいくらでもある。
 押し付けられた仕事をやっとの思いで終え、家に戻れば全員が既に眠りについていた。
 真っ暗になった食卓の上には1つの芋。
 蒸されてもいない芋を齧って空腹を満たした。
 夜空の下で身を縮こませて眠りにつく。

 いつ雨が降るのかも野犬に襲われるのかも分からない。
 それでも、彼に取っては家にいるよりは安心するのだ。

 彼は、まだ3歳だ。
 親の愛を乞う他に何が出来ると言うのだろう。

 ある日の事だった。
 彼が1人で野苺を摘んでいた時だった。
 籠一杯に摘む野苺も継母に奪われる事を分かっていながら、真面目に仕事を続ける彼の元に1人の大人が近づいてきた。
 聞けば、巡礼している司祭だという。
 
 彼の住む集落に教会と呼ばれるものはない。
 心許ない小さな祭壇が1つあるだけだ。
 豊作を毎年祈る日にも彼は離れた場所から覗き見るくらいしか神の名に触れる事はなかった。

 話しかけてきた司祭という大人が『神子だ。奇跡だ。』と騒いでも彼には何が何だか分からない。

 父とその妻が何事かとやって来ると、司祭と名乗る男は大袈裟にも彼を『神子である。』と声高に伝えた。
 集落の長をも加わった話し合いに父とその妻の顔色が悪い。
 彼らにとって司祭とは、最も神に近い頭の上がらない存在なのだ。

『私は、この子が野苺を摘む姿をずっと見ていた。 
 それがどうだ。
 この子が歩けば野苺が現れ、採った側から新たな野苺が現れるのだ。
 この子は神の力が宿った奇跡の子に違いない。』

 興奮気味の司祭を見上げた彼は何が奇跡なのか分からなかった。
 だって、彼にとっては当たり前の事だったからだ。

 野苺を求めれば豊富に実った場所を見つけ、魚が求めて水面を覗けば魚の方から彼の胸に飛び込んできた。
 寂しく外で1人で過ごす夜には何処からともなく歌が聞こえ安心して眠りにつく。

 司祭の話に驚きながらも、年老いた長は自分達の集落から“神子”が誕生したと大喜びし、父は複雑な顔で彼を見つめ、継母は彼を視界に入れないように努めていた。

 そうして、この日から彼の人生が変わった。


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