続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路 〜秘境の台座〜

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 サラサラッ

 優しい風が木々の葉を撫でるように通り過ぎていく。

「まだかなぁ。」

 泉に浮かぶ小島の端でパティが膝を抱えて、真っ黒な森を見つめいた。

「パティ。それ、さっきも言ってたぞ。
 落ち着け。」

 ヒューゴが声をかけると、パティがジロリと睨みつけた。

「ヒューゴだって、ずっとウロウロして落ち着いてないじゃん。」

「ん?そうか?」

 2人は夜だと言うのに送り出したナギとパティが心配なのだ。

「やっぱり、朝まで待てば良かったんじゃないか?」

「そうだよ。ナギが今から行ってくるなんて言うから・・・。」

 心配の尽きない2人がブツブツと言っているのを見てイオリは苦笑した。

「ソワソワしてんな。」

 ヒューゴとパティの様子を見ながらヴァルトが焚き火に戻ってきた。

「そうですね。
 2人の事を信じているのと、心配は別物ですからね。」

「お前も、よく行かせたな。」

 ーーー僕できるよ。
 
 イオリは、自分の事を澄んだ瞳で真っ直ぐと見上げてきたナギの顔を思い出した。
 親と別れ、暗い森の中を連れ回されて、闇落ちのトロールに襲われてメソメソとしていた小さなエルフの少年は成長して世界を見る目を持った。
 誰かの後にくっついているだけじゃない。
 自分の意思で行動するようになったナギをイオリは誇らしく思っていた。

「あっ!
 マルクル駄目だよ。
 ナギとニナが帰って来てから!」

 野外キッチンでスコルがマルクルを嗜めている。

「何やってんだ?」

 そんなスコルをヴァルトが不思議そうに見つめた。

「2人が帰ってきた時に一緒にホットチョコレートを飲むんだそうです。
 それで、お風呂に入って寝るんだって言ってました。」

 イオリの優しい顔が焚き火に照らされている。
 
「本当の家族になったんだな。」

「はい?」

「以前、父上が言っていたんだ。
 《心配し世話を焼くだけが家族ではない。
 時には手を離し、信じて送り出すのも家族だ。》とな。」

 ヴァルトは思い出したように小さく笑った。

「俺の祖父も同じような事を言ってましたよ。
 俺が初めて1人で狩猟に向かう日の朝です。
 心配する祖母に激ギレされてましたけど。
 《心配じゃないのか!人手なしー!》って。
 鎌持って地団駄踏むもんだから、祖父と慌てて止めました。」

 クククッと笑うイオリに釣られてヴァルトも笑い出した。

「イオリのお婆様は、もっと大人しい方だと思っていたんだがな。
 中々の傑物だな。」

「はい。
 大概の説教のお叱りは祖母からでした。
 そんな時は、後で祖父が近づいて来て《もっと上手くやれ。》って一言だけくれるんです。」

 懐かしさに浸っていたイオリは光り輝く魔法陣に浮かぶダークエルフの剣を見つめた。
 それは、無意識に思い出よりも現実を見ようとした表れかもしれない。

 ダークエルフの剣はトゥーレが距離を保ち見張っていた。
 ピクリとも言わない剣に異様な恐怖すら覚える。

「早く。
 なんとかしたいな。」

「はい。」

 そんな時だった。
 ゼンが耳をピクリと動かし、スクっと立ち上がり泉の端に座り込むパティに駆け寄っていく。

「帰って来たかな?」

 イオリは微笑むとゼンの後を追った。

ガサガサッ

 草木の擦れる音がすると、エルノールを伴ったナギとニナが満足そうに微笑みながら帰って来たのだった。
 
「「ただいまー!」」





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