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旅路 〜秘境の台座〜

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 中つ国とは、違う空間に存在するカプリースの事である。

 そう、考察したトゥーレは一同を見回した。

「お気づきでしょうが、我々がスカイヤ様の白亜の宮殿にいた時分は太陽が上がって暫くした朝でした。
 しかし、この泉に到着したのは陽が落ちる寸前の夕刻です。
 この時間の差の疑問も考えなければなりません。」

 そんなトゥーレにナギがおずおずと手を上げた。

「それなら、絵本に答えがあるかもよ。
 ほら、言ったでしょ。
 海の宮殿に行った男の話。
 この男も時間軸がズレてて、数日のつもりが海で何年も過ごしていたんだ。」

「あぁ・・・アレか。」

 イオリは御伽話を思い出していた。
 何度も言うが、アレはイオリの元の世界の話であって、この世界の逸話ではない。
 それでも、大きなヒントとなって思い付きを口にした。

「中つ国・・・本当にカプリースがダンジョンだったとしたら、どうでしょう。」

「聞かせて下さい。」

 真剣な顔のトゥーレにイオリは頷いた。

「魔法陣で繋がった違う空間・・・それがカプリースなのだとしたら、カプリースはダンジョンです。
 そして、スカイヤの白亜の宮殿が・・・。」

「ラスボス部屋か。」

 ヴァルトの呟きにイオリは頷いた。

「そう言えば、スカイヤ様は言ってなかったか?
 どのダンジョンが己の住処と繋がるのかは神のみぞ知るって。」

 思い出したようにヒューゴが呟いた。

「恐らく、ドラゴンにおける魔法陣とは我々とは違い、もっともっと自由な物なのでしょう。
 絶対神から与えられた魔法陣の力・・・。
 これを操るスカイヤ様がわざわざイオリに旅をさせた。」

 神妙な顔したトゥーレの肩越しにソルとゼンが戯れているのを見たイオリが「フフっ」と笑い出した。

 疑問の視線が集まる中、イオリは本格的に笑い出した。

「あははは!」

「何だと言うんだ。」

 怪訝そうなヴァルトにイオリは微笑んだ。

「思い出したんですよ。
 初めてスカイヤに会った時の事を。
 俺、スカイヤに聞かれたんです。
 《何をしに此処に来た》って。」

「何て答えたんだ?」

 イオリは、もう1度笑った。

「フフ。
 《知らない世界を見に》って。
 スカイヤは、俺に世界を見せたんです。
 人族、獣人、エルフ、それにドワーフも・・・現在の世界の様々な種族の見据えているもの、生き様を教えたかったんですよ。」

 ヴァルトは楽しそうに笑うイオリに眉を下げて微笑んだ。

「・・・そうか。
 世界平和を語るなら、世界を知れと言う事か・・・。」

 ヴァルトは未だに、どう扱えばいいのか分からぬダークエルフの剣を見つめた。

「マルクル。
 それ以上、近づくなよ。
 何が起こるか分からないんだからな。」

「あいよ。」

「トゥーレ。
 父上に連絡を取れ。
 一大事が起こっているとな。
 それに、我々がカプリースにいた時間も知らねばならないだろう。」

「ハッ!」

 ヴァルト達が動き出した。
 イオリは、何かを問う様に空を見上げるのだった。
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