続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路 〜カプリース〜

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ーーードラゴン。

 神獣でもなければ幻獣でもない。
 ましてや獣でも魔獣でもない、始まりの時代から存在する歴とした種族である。

 強大な力を持つドラゴンは他の種族と共存する事が難しく、それでいて決して争うでもなかった。
 彼等は空を自由に舞い踊り、鋭い爪で大地を割り、咆哮は空気を切り裂いた。

 他の種族はドラゴンを畏怖し、また憧れた。
 姿を見せる事がないドラゴンは今や幻の存在だった。


 正に伝説を聞いて育ったヴァルトと従者達は空に浮かぶ黒点が徐々に大きくなっていくのを呆然として見つめていた。

 その黒点は恐れる間もなくドラゴンであると確認できる。
 翼を広げ悠々とやって来たドラゴンは瞬く間に地上に降り立つと、それぞれ人族の姿に変化していく。

『ジェモー、来てやったぞ。』

『お客様ですってね。
 おもてなし出来てるの?』

『・・・久しぶり。』

 ジェモーは3人のドラゴンの登場に大きく溜息を吐いた。

『リオン・・・別に招いていません。
 サジテールの暴走です。
 アリエーテ・・・もてなす前ですよ。
 キャンサー・・・せっかく来たのですから、もう少し前に出てきたら如何です?』

 リオンと呼ばれた男は、既にジェモーではなく一瞬でイオリを探し当て、ギラギラした視線で見つめてきていた。

『リオン・・・イオリは貴方と戦いませんよ。
 最初は自己紹介からでしょう?』

 ジェモーが間に入った事で視線を遮られたリオンは不満そうに拗ねた。

『つまらん!
 人族は弱いからな。
 “愛し子”ならば多少は楽しめるかと思ったのに!』

 その一言だけでリオンというドラゴンが、どんな性格なのか理解できようものだった。
 なんとも言えない顔でジェモーはイオリ達に振り返った。

『騒がしくて申し訳ない。
 この男は“果敢なる強靭”リオンです。
 強き者に挑む猛者である彼は力試しをこよなく愛します。』

 どこか呆れたようなジェモーの肩越しにオレンジ色の髪が覗き込んだ。

『お前が“愛し子”だな?
 我等が王にも勝ったと聞いたぞ!
 俺とも戦え!』

 獲物を見つけたとばかりの暑苦しい目に捕まったイオリは、思わず後退りをする。

「スカイヤとの戦いは予想外でした。
 同じ様に戦えるかは分かりません。」

 何とか逃げようとするイオリであったがジェモーを力強く退けたリオンに簡単に捕まった。

『戦いが全て同じ訳がないだろう。
 ヨシっ!
 今からるか!』

 イオリを担いで行こうとするリオンを可憐な声が止めた。

『リオン。
 お待ちなさいな。
 私達の挨拶がまだよ。』

『チッ!』

 真っ赤なウェーブした髪に華やかなドレスを身に纏った美女の引き止めにリオンが間も置かずに舌打ちをした。

『オラッ。早く終わらせろよ。』

 ストンと地面にイオリは安堵した様に息を吐き出した。

『乱暴者でゴメンなさいね。
 お会いできて嬉しいわ。
 私は“情熱による華美”アリエーテ。
 愛と美を好む可憐なドラゴンよ。』

 アリエーテは華やかさを隠す事なくイオリにカーテシーをしてみせた。

「初めましてイオリです。」

 イオリが自身と家族達の自己紹介をするとアリエーテは嬉しそうに頷いた。

『隠れている1人は恥ずかしがり屋さんなの。
 私から紹介するわね。
 彼女は“怯懦ゆえの慧眼”キャンサー。
 好戦的なドラゴンの中で、臆病は弱さではなく賢いのだと教えてくれる稀なる子よ。
 キャンサー、いらっしゃい。』

 木の影に隠れていた少女はアリエーテに呼ばれると、真っ赤な顔を少し出すと小さく手を振った。

『・・・よろしくね。』

 猛々しいドラゴン、可憐なドラゴン、恥ずかしがり屋のドラゴンの登場にジェモーの塔の周囲は華やかになった。
 個性の強いドラゴン達を前に他には、どんなドラゴンがいるのかと想像して微笑むイオリだった。
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