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旅路 〜カプリースへ〜

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 満天の星空に一筋の煙が上がっていた。

 海沿いの細い道をやって来たイオリ達一行は、海が見渡せる狭い場所にキャンプ地を作っていた。

 お馴染みのテントが張られ、少し時間が経てば野外とは思えない芳しい香りが立ち込め始めた。

 一夜を過ごす準備をしていたヴァルトの鼻がリズミカルに動いた。

「いい匂いだ。」

「ヴァルト、涎が出てますよ。」

 トゥーレに指摘され慌てて口元を拭うと誘われる様に匂いのする方に近づいて行く。

 焚き火の上から吊り下げられている鍋の中にはブラウン色のコポコポと音を立てたシチューが見た目からも美味しさを伝えてきていた。

「あっ、ヴァルト駄目だよ。
 今、パンが焼き上がるから待ってて。」

 長剣をお玉に持ち替えたスコルが盗み食いを阻止しようと立ちはだかった。

「分かってるさ。
 私だって大人だぞ。」

 しかし、アースガイルでは王ですら盗み食いをする事を知ってしまっているスコルからの疑いの目が突き刺さる。
 「コホンッ」と咳払いをしたヴァルトは改めて鍋を覗き込んだ。

「で、この鍋の中身は何なんだ?」

「スペアリブのシチューだよ。
 旅中で栄養摂取するのにシチューは1番良いよ。
 スペアリブは骨付き肉の事だよ。
 骨からも出汁が出て、すっごい旨くなるんだ。
 楽しみにしてて!」

 再び、口に涎が溜まり出したヴァルトであったが、ヒューゴに呼ばれて後ろ髪を引かれる思いで焚き火からは離れて行った。

「撃退してきた。」

 ニヤニヤとしているスコルに苦笑するとイオリは肩を落としているヴァルトに視線を向けた。

「あ~ぁ。
 ヴァルトさん、クロムスに蹴られてるよ。」

「ヒューゴと一緒にシールド張り巡らす仕事があるからね。
 クロムスとしたら、早く終わらせてゼンちゃんと遊びたいんじゃない?」

「久々に会ったクロムスも体が大きくなってたね。
 あの蹴りも割と痛いと思うよ。」

 イオリは笑いを堪えるように、翌日のおやつ用のドーナツの生地を捏ねた。
 酵母を加えて発酵させた生地は油で揚げるとフワフワで子供達に大人気だ。
 いつもより多めに作っているのは食いしん坊が増えた事による保険だった。

 ニコライ達と別れた後も馬車の中でしゃべりっぱなしだった子供達も疲れを見せる事なく手伝いをしている。

 馬車を引っ張ってくれていたアウラを労う様に優しくブラッシングするニナとパティを手伝っているマルクルは、脱がしてやったハーネスを磨いている。

 お風呂の準備を終えたナギがテントから顔を出すと、テーブルのセッティングをしていたトゥーレの手伝いに加わった。

 一帯をシールドで囲み、安全を確保して来たヴァルトとヒューゴが戻ってくると、イオリはオーブンから香ばしく焼き上がったパンを取り出した。

「今日もお疲れ様でした。
 さぁ、ご飯にしましょうか。」

 食卓に並んだ美味しそうな食事を前に一同は顔を見合わせニッコリと微笑んだ。

「「「「いただきまーす!」」」」

「召し上がれ。」

 この日も皆んなが美味しそうに肉に齧り付くのを見てイオリは顔を綻ばしたのだった。

_____

『あぁ、お腹減ったぁ・・・。
 ん?これ・・・良い匂い!』

 グルグルと悲鳴を上げる腹を摩り、彼女は鼻をクンクンとさせると小さな焚き火を見つけニッコリとした。

「みーつけた。」
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