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旅路 〜グランヌス・王宮〜
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昔々ある所に心優しい若者が住んでいました。
ある日、若者が海沿いを歩いていると子供達が亀を虐めているのに遭遇しました。
「やめておあげ。」
若者は子供達から亀を助けると、海に帰してやりました。
「もう、捕まるんじゃないよ。」
感謝する亀と別れて暫く経った日の事でした。
再び海沿いを歩く若者を呼ぶ声がします。
あの時の亀が海から顔を出し、自分の主人が助けてくれたお礼に宴会の招待していると言いました。
彼らの住まいが海の底の宮殿と聞き、驚く若者でしたが亀の誘いを受ける事にしました。
亀の背に乗って海底に向かった若者の前に現れたのは美しい宮殿でした。
ウットリとしていた若者を出迎えてくれたのは色とりどりの魚や煌めく珊瑚や貝、笑顔の人々でした。
そして宮殿から一際美しい女性が現れた。
「本日は、ようこそお越しくだされました。
私共の亀を助けて頂き有難うございます。
どうぞ、ごゆるりと過ごされなさいませ。」
美しい女性は周囲の者達から“姫”と呼ばれていました。
姫に案内された広間で始まった宴会では美味しい料理が次々と運ばれ、楽し気な音楽が流れると鯛やヒラメが舞い踊り、クラゲがフワフワとリズムを取っています。
「ここは天国か・・・。」
宮殿で過ごす事が心地良く、姫に乞われるままに滞在を1日、また1日と伸びていきました。
楽しい日々の中で、ある日、若者はハッとして、置いてきた母はどうしているかと不安になりました。
「姫、長い間お世話になりました。」
地上へ帰ると伝えた若者に姫は寂しそうに引き留めましたが、若者の決意を受け入れ、名残惜しそうに艶やかな箱を差し出しました。
「お土産に、この箱を差し上げましょう。
しかし、決して開けてはなりません。
どうぞ、思い出として手元に置いて下さいませ。」
姫は何度も何度も“開けてはならない”と若者に伝えました。
海底の宮殿との別れに一抹の寂しさを感じながらも来た時と同じように亀の背に乗った若者は母に会える事に喜んでいました。
「お達者で。」
亀と別れ、自宅への道を歩む若者は周囲の異変に気付きました。
「おかしいな、数ヶ月離れただけなのに随分と変わったものだ。」
ついに我が家へ帰ってきた若者でしたが、そこに彼の家はありませんでした。
「・・・どういう事だろう。」
戸惑う若者に通りすがりの人が声を掛けました。
「そこに住んでいた人は海に行ったっきり帰ってこなかったそうですよ。
ご家族は帰りを待っていたそうですが、息子はついぞ戻って来なかったんですって。」
「・・・それはいつの事ですか?」
「さて、100年は前だったはずですよ。」
驚愕する若者を不思議そうな顔で見つめた人は去って行きました。
「そんな・・・。」
自分は数ヶ月だけだと思っていたのに100年も経っていたと知った若者は海底での暮らしに現を抜かしていた間に家族を失った事に悲しみに暮れるのでした。
ーーーーーーーーーー
「えー!若者、お母さんと会えなかったの?」
驚くユズ姫にナギは困ったように笑った。
「そうだね。
夢中になると人って時間を忘れるらしいよ。」
長命なエルフのナギは、どこか他人事の様だった。
「1人になった若者は、どうなってしまったのだろう。」
一緒に聞いていたヨリタカは若者を心配した。
「もう家族に会う事も、海底の宮殿に戻る事も出来ない寂しさから、我慢が出来なくなった若者は姫に言われた“開けてはいけない”の言葉を破り、土産で貰った箱を開けちゃったんだ。
箱には若者の時が入っていたんだって。
約束を破った若者はシワクチャのお爺さんになっちゃったんだって。」
ナギが話を終えると子供達が悲鳴を上げたのだった。
昔々ある所に心優しい若者が住んでいました。
ある日、若者が海沿いを歩いていると子供達が亀を虐めているのに遭遇しました。
「やめておあげ。」
若者は子供達から亀を助けると、海に帰してやりました。
「もう、捕まるんじゃないよ。」
感謝する亀と別れて暫く経った日の事でした。
再び海沿いを歩く若者を呼ぶ声がします。
あの時の亀が海から顔を出し、自分の主人が助けてくれたお礼に宴会の招待していると言いました。
彼らの住まいが海の底の宮殿と聞き、驚く若者でしたが亀の誘いを受ける事にしました。
亀の背に乗って海底に向かった若者の前に現れたのは美しい宮殿でした。
ウットリとしていた若者を出迎えてくれたのは色とりどりの魚や煌めく珊瑚や貝、笑顔の人々でした。
そして宮殿から一際美しい女性が現れた。
「本日は、ようこそお越しくだされました。
私共の亀を助けて頂き有難うございます。
どうぞ、ごゆるりと過ごされなさいませ。」
美しい女性は周囲の者達から“姫”と呼ばれていました。
姫に案内された広間で始まった宴会では美味しい料理が次々と運ばれ、楽し気な音楽が流れると鯛やヒラメが舞い踊り、クラゲがフワフワとリズムを取っています。
「ここは天国か・・・。」
宮殿で過ごす事が心地良く、姫に乞われるままに滞在を1日、また1日と伸びていきました。
楽しい日々の中で、ある日、若者はハッとして、置いてきた母はどうしているかと不安になりました。
「姫、長い間お世話になりました。」
地上へ帰ると伝えた若者に姫は寂しそうに引き留めましたが、若者の決意を受け入れ、名残惜しそうに艶やかな箱を差し出しました。
「お土産に、この箱を差し上げましょう。
しかし、決して開けてはなりません。
どうぞ、思い出として手元に置いて下さいませ。」
姫は何度も何度も“開けてはならない”と若者に伝えました。
海底の宮殿との別れに一抹の寂しさを感じながらも来た時と同じように亀の背に乗った若者は母に会える事に喜んでいました。
「お達者で。」
亀と別れ、自宅への道を歩む若者は周囲の異変に気付きました。
「おかしいな、数ヶ月離れただけなのに随分と変わったものだ。」
ついに我が家へ帰ってきた若者でしたが、そこに彼の家はありませんでした。
「・・・どういう事だろう。」
戸惑う若者に通りすがりの人が声を掛けました。
「そこに住んでいた人は海に行ったっきり帰ってこなかったそうですよ。
ご家族は帰りを待っていたそうですが、息子はついぞ戻って来なかったんですって。」
「・・・それはいつの事ですか?」
「さて、100年は前だったはずですよ。」
驚愕する若者を不思議そうな顔で見つめた人は去って行きました。
「そんな・・・。」
自分は数ヶ月だけだと思っていたのに100年も経っていたと知った若者は海底での暮らしに現を抜かしていた間に家族を失った事に悲しみに暮れるのでした。
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「えー!若者、お母さんと会えなかったの?」
驚くユズ姫にナギは困ったように笑った。
「そうだね。
夢中になると人って時間を忘れるらしいよ。」
長命なエルフのナギは、どこか他人事の様だった。
「1人になった若者は、どうなってしまったのだろう。」
一緒に聞いていたヨリタカは若者を心配した。
「もう家族に会う事も、海底の宮殿に戻る事も出来ない寂しさから、我慢が出来なくなった若者は姫に言われた“開けてはいけない”の言葉を破り、土産で貰った箱を開けちゃったんだ。
箱には若者の時が入っていたんだって。
約束を破った若者はシワクチャのお爺さんになっちゃったんだって。」
ナギが話を終えると子供達が悲鳴を上げたのだった。
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