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旅路 〜グランヌス・王宮〜
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熱い・・・人が住む上で、なんと過ごし難い国であろうか。
水は湯となり、作物も育たぬ生きる事において全てが試練となる場所で、集まった人々は常に戦いを求めていた。
毎日のように広場に人が集まり、誰それ構わずに立ち合いをしては盛り上がっている。
なんと馬鹿らしいと思っていたが、住人達のギラついた瞳に誘われて輪に入れば、自分自身こそも、その馬鹿者であると理解した。
しかし、腹が減った。
火の国の前に立ち寄った森では食す物も困る事はなかった。
果実や野菜が豊富で、魔獣を狩れば肉にもありつけた。
機織りに勤しんでいた時の穏やかな時間が懐かしい。
ーーーーーーーー
「なっ。
特別重要な事など書いてないだろう?」
ニヤニヤと見つめてくる国王トウカ・ノブタカ・ショーグンにイオリは苦笑した。
「なんだか、楽しそうですね。
十蔵さん。」
「我はな、秘伝の剣術や、偉大な力の教えが書されていると思っていたのだ。
それが、旅の感想しか書かれていない。
幼少の年に夢を砕かれたのだ。」
どこか拗ねたようなノブタカはイオリが読んでいた書簡を指で弾いた。
「やっと自由を手にしたんです。
どんなに苦しくても楽しんでいる様子が伺えます。」
「・・・自由か。」
ノブタカと宰相ケンショー・オオスギが顔を見合わせ考え込んだ。
「イオリさん、それは大将軍は使命を終えたと言う事ですか?」
「そうですね。」
伝えるか悩んでいたが、イオリは2人に十蔵とマテオに起こった悲劇・・・前世の話を聞かせた。
転移してまでも守りたかった親友と妹の絆。
そして妻である志乃との運命。
何を犠牲にし、何を得たかったのか。
マテオと共に国を創り上げた十蔵は自分の役目は終わったと肩の荷を下ろしたのだ。
グランヌスの国王と宰相はイオリの話を真剣な顔で聞いていた。
「人生を賭けて成し遂げたい願いが叶い、費やしていた刻が終わりを迎えると、人はどうしたら良いんでしょうね。
海を渡り、グランヌスまで来た十蔵さんにとっての長旅は、この世界を楽しんだ自由の時間だったんではないかと思うんです。
その後、十蔵さんは志乃さんの元に戻り、終生仲良く過ごされたそうですよ。」
「そうか。
大将軍は神でも英雄でもなく人であったか。」
伝説の人物が神格化される事は、どの世界も同じだろう。
大将軍と崇めるジュウゾウが悲しみを胸に秘めて、この世界に渡ったと知ったノブタカの真意は如何な物だっただろう。
「良き話を聞いた。
アースガイルの国王もご存じなのだろう?
我もムネタカに・・・子供達に話して聞かせてやろうと思う。
これこそが国を背負う者達が知るべき大将軍の歴史だ。」
国王トウカ・ノブタカ・ショーグンは、宰相ケンショー・オオスギに大将軍に関する書簡の制作を命じた。
ケンショー・オオスギが記した書簡に“神の愛し子”について論じられた歴史書がある。
その書簡の最終章にイオリから伝え聞いた大将軍ジュウゾウの転移物語が記載された。
グランヌスに残る“神の愛し子”の歴史書は、歴代の王家に受け継がれていく事になる。
「十蔵さん、嫌がるだろうなぁ。
まぁ、いっか。」
草葉の陰で憤怒しているやもしれぬ会った事もない人に、申し訳なさも感じぬ微笑みをしたイオリだった。
熱い・・・人が住む上で、なんと過ごし難い国であろうか。
水は湯となり、作物も育たぬ生きる事において全てが試練となる場所で、集まった人々は常に戦いを求めていた。
毎日のように広場に人が集まり、誰それ構わずに立ち合いをしては盛り上がっている。
なんと馬鹿らしいと思っていたが、住人達のギラついた瞳に誘われて輪に入れば、自分自身こそも、その馬鹿者であると理解した。
しかし、腹が減った。
火の国の前に立ち寄った森では食す物も困る事はなかった。
果実や野菜が豊富で、魔獣を狩れば肉にもありつけた。
機織りに勤しんでいた時の穏やかな時間が懐かしい。
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「なっ。
特別重要な事など書いてないだろう?」
ニヤニヤと見つめてくる国王トウカ・ノブタカ・ショーグンにイオリは苦笑した。
「なんだか、楽しそうですね。
十蔵さん。」
「我はな、秘伝の剣術や、偉大な力の教えが書されていると思っていたのだ。
それが、旅の感想しか書かれていない。
幼少の年に夢を砕かれたのだ。」
どこか拗ねたようなノブタカはイオリが読んでいた書簡を指で弾いた。
「やっと自由を手にしたんです。
どんなに苦しくても楽しんでいる様子が伺えます。」
「・・・自由か。」
ノブタカと宰相ケンショー・オオスギが顔を見合わせ考え込んだ。
「イオリさん、それは大将軍は使命を終えたと言う事ですか?」
「そうですね。」
伝えるか悩んでいたが、イオリは2人に十蔵とマテオに起こった悲劇・・・前世の話を聞かせた。
転移してまでも守りたかった親友と妹の絆。
そして妻である志乃との運命。
何を犠牲にし、何を得たかったのか。
マテオと共に国を創り上げた十蔵は自分の役目は終わったと肩の荷を下ろしたのだ。
グランヌスの国王と宰相はイオリの話を真剣な顔で聞いていた。
「人生を賭けて成し遂げたい願いが叶い、費やしていた刻が終わりを迎えると、人はどうしたら良いんでしょうね。
海を渡り、グランヌスまで来た十蔵さんにとっての長旅は、この世界を楽しんだ自由の時間だったんではないかと思うんです。
その後、十蔵さんは志乃さんの元に戻り、終生仲良く過ごされたそうですよ。」
「そうか。
大将軍は神でも英雄でもなく人であったか。」
伝説の人物が神格化される事は、どの世界も同じだろう。
大将軍と崇めるジュウゾウが悲しみを胸に秘めて、この世界に渡ったと知ったノブタカの真意は如何な物だっただろう。
「良き話を聞いた。
アースガイルの国王もご存じなのだろう?
我もムネタカに・・・子供達に話して聞かせてやろうと思う。
これこそが国を背負う者達が知るべき大将軍の歴史だ。」
国王トウカ・ノブタカ・ショーグンは、宰相ケンショー・オオスギに大将軍に関する書簡の制作を命じた。
ケンショー・オオスギが記した書簡に“神の愛し子”について論じられた歴史書がある。
その書簡の最終章にイオリから伝え聞いた大将軍ジュウゾウの転移物語が記載された。
グランヌスに残る“神の愛し子”の歴史書は、歴代の王家に受け継がれていく事になる。
「十蔵さん、嫌がるだろうなぁ。
まぁ、いっか。」
草葉の陰で憤怒しているやもしれぬ会った事もない人に、申し訳なさも感じぬ微笑みをしたイオリだった。
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