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旅路 〜グランヌス・王宮〜

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 焦げ臭い匂いが立ち込める枯れた土地を男は三度笠で顔を隠しながら歩いた。
 
 乾燥した赤土が風で舞い、顔に当たり目を開けるのも辛い。
 徐々に斜面と化す大地を踏ん張りながら前を進む男の腰に細い刀が差さっていた。
 背中に小さな袋を背負った身軽な格好で、長旅をしてきた疲れも見せぬ眼光鋭い瞳を持った男だった。

 海を渡り、砂漠を抜け、いつ何時に魔獣が襲ってくるかも分からぬ森を抜けてやって来た。
 
 ボコボコと沸き立つ赤く輝く川の近くは暑くて敵わない。
 大地から噴き出す気体からは腐臭の匂いがする。
 
 世界の果ての様な場所に男が来たのには2つの理由があった。
 1つは、かつて自分に教えを乞いた者達が国を造ったと聞き、己の目で確かめる為だった。
 そして、2つ目は火山と呼ばれる秘境に住む竜に会うためだった。

 1つ目の目的は達成できた。
 この、人が住みづらい土地に腰を据えた者達は、かつて自分の元にいた時よりも生きる事に貪欲になっていた。
 己の強さを磨き、男に挑み掛かって来る意気や良しと感心すらした。

 しかし、2つ目の目的は見つける事が難しい。
 火山の高い位置まで登ってきたが、存在の一端を掴む事すら出来ない。

 男は火山の国に滞在する事1ヶ月。
 ついぞ諦めて国を後にした。

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「あぁ、こちらをご覧になっていたんですね。」

 宰相のケンショー・オオスギは書簡を読み耽るイオリを興味深そうの見つめた。

 十蔵の事が知りたい。

 そう言ったイオリの願いを叶えようと、国王が秘蔵文書を保管している部屋への入室を許可してくれた。

 案内を買って出たのは宰相だった。

「この国でジュウゾウの名を知らぬ者はおりません。
 大将軍と崇めているのも、出会った先人達が、そう呼んだからです。
 しかし、信じられませんね。
 アースガイルで大将軍の名が広まっていないとは・・・。」

 不満気な宰相ケンショー・オオスギにイオリは苦笑した。

「恐らく、初代国王マテオ・アースガイルが静かに暮らしたいと願った十蔵さんを気遣ったのだと思いますよ。
 それが、いつの間にやら話自体が廃れていったんでしょうね。」

「謙虚も大概にしないと損をします。」

 もっと、世界中にジュウゾウの功績を伝えたいと宰相ケンショー・オオスギは息巻いた。

 ジュウゾウがグランヌスを訪れたのは、アースガイルの初代国王マテオから離れた後の事である。
 前世からの重石を降ろしたジュウゾウにとって、やっと手に入れた穏やかな時間だったのではないだろうか。
 マテオ・アースガイルからの依頼で砂の国・・・現在のデザリアの軍事強化に携わった後に自由に旅をしたのだろう。

「デザリアからパライソの森を通りグランヌスへ来たんですね。」

「お前と同じルートだろう。」

 声がした方を見るとグランヌス国王トウカ・ノブタカ・ショーグンが着流した着物の胸元を掻きながらやって来た。

「なんだか資料っていうか、旅日記みたいです。」

 苦笑するイオリにノブタカは声を上げて笑った。

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