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旅路 〜グランヌス・王宮〜

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 離宮に戻ってきたムネタカは鍋をかき混ぜるイオリに目を止めると、声をかけた。

「お疲れ様です。イオリさん。」

「お帰りなさい。ムネタカさん。
 町の方はどうでした?」

「事件の顛末に困惑はあったみたいですが、大きな問題にはならなかった様です。
 イケダ屋の面々が尽力してくれたお陰です。
 今は、火龍様の出現に話題が尽きないようですよ。」

 ムネタカは、騒動の終結後に次期国王として国の再建に動き回っていた。
 
 真っ先にしたのは“ルーシュピケ”へ進軍していた軍の全面撤退だった。
 血気盛んな軍において多少のいざこざがあったようだが、“パライソの森”の被害は最小限と聞いている。

 次に“魅了”から解放された国民や貴族が、王族や国に不敬を働いたと嘆くのを気遣った。
 “魅了”と無縁であっても、強さを求めるグランヌスの貴族として姫巫女陣営についた者達は肩身が狭い思いをしている。
 人々の心から猜疑心を取り除くには時間が掛かる。

 今、宰相ケンショー・オオスギを筆頭に姫巫女を利用して悪事を働いていた者達を捕らえ、順に尋問が行われている。
 その筆頭と言っていいのがヨシノリ・アラキやセインを手元に置いていたエチゴ屋の主人だった。
 己の行いよりも、自身の思い通りにいかなかった事を嘆く2人に反省の色はない。
 困難を極めているのは、元ミズガルドの貴族であったドナン・リューゲだった。
 事件で件の魔道具達が大きな役割を果たしたのは事実である。
 しかし、彼が齎した魔道具に対して情報に明るくないグランヌスの役人達では真相の解明に苦労する事は明白だった。
 そこで、ミズガルドから人材を送ってもらう事になったのだ。
 恐らく、ドナン・リューゲの尋問が始まるのは、随分と先になりそうだ。

 溜息を吐くムネタカにイオリは温かいブラウンシチューを差し出した。

「お疲れですか?」

「やる事が多くて。
 調査が終わったら、離宮は解体する事になりました。
 跡地で何をするかは分かりませんが、国民の為に利用したいと考えています。」

 美味しそうにブラウンシチューを頬張るムネタカの前にパンやオムレツや用意される。
 テキパキと動くスコルにムネタカは目を細めた。

「弟や妹達がナギやニナの手を借りてるそうだ。
 ありがとう。」

 それを聞くとスコルはニッコリと笑った。
 透明の球体に拘束されていたムネタカの妹弟達は心身衰弱から徐々に回復している。

「ナギのライアーの音色やニナの光魔法は心の癒しになるんだ。
 さっき、パティがイオリ特製の体に優しいスープ持って行ったから、すぐに回復するよ。」

 ムネタカは、再び礼を言うと振り返り、至る所で笑顔で食事をしている衛兵や使用人、侍女達を見回した。
 
 事件は終わった。
 安堵する気持ちと解消できない複雑な想いが織り混ざる。

「イオリさん。」

「はい?」

「セインが言っていたダークエルフの声が聞こえるとは、どう言う事でしょう?
 本当にダークエルフが復活するのでしょうか?」

 イオリは野菜を切っていた手を止めてムネタカに視線を上げた。

 ムネタカは今も尚、傷ついた後宮の庭園で賑やかに笑う人々を見つめていた。
 もう、この笑顔を失いたくないと願いながら。


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