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旅路 〜グランヌス・王宮〜

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 《消えた同胞が後宮に散らす血の花を楽しむと良い》

 確かに“エルフの里の戦士”はそう言った。

「ロクっ!」
「御意っ!」

 主人の叫びにロクは塀を越えて行く。
 
 姫巫女が割ったガラス玉から出てきた者の中に、姿を眩ますスキル持ちがいたようだ。

「間に合え・・・。」

 祈るようなムネタカに衛兵達も固唾を飲んだ。

『大丈夫だよ。
 あっちには双子がいるもん。
 ナギだってニナだって強いんだから。』

 ドシドシと足音を立てて近づいてきたゼンにムネタカは弱々しい笑顔を向けた。

「だとしても、“エルフの里の戦士”です。
 それに・・・後宮にアオイ様を残しています。」

「それが?ダメなのか?」

 ヒューゴが合流して問いかけるとムネタカは顔を引き攣らせた。

「本来ならアオイ様も、いの一番に此方に乗り込んできてもおかしくない。
 だとすれば、後宮を守る為に無理やり置いてこられたんです。
 アオイ様のフラストレーションは非常に溜まっているはずです。
 アオイ様は・・・。」

 言い淀むムネタカにゼンとヒューゴが無言で続きを促した。

「怒ったアオイ様は容赦が無いんです。
 母ソウビであれば、敵から情報を引き出すくらいの強かさがあるのです。
 でも、見境なくなったアオイ様は隠密の本分など忘れて派手に暴れ回ります。
 後宮を破壊したとしても・・・。」

ドッカーン!

 その瞬間、離れた場所で大きな爆発音が聞こえた。

「あぁ・・・ほら。」

 頭を抑えるムネタカは煙の上がった方角を唖然と見上げる2人を見て気まずそうに顔を逸らした。

「こりゃ、大胆だな。」

『大丈夫かな?』

「申し訳ない。
 でも!
 アオイ様も、子供達を巻き込む事はないと思います。」
 
 言い訳めいたムネタカが顔を上げると、ヒューゴとゼンが顔を見合わせ苦笑していた。

「マズいな。
 これは、アイツらにはお祭り騒ぎだ。」

『特にパティがテンション上がってそう。
 楽しい事が大好きだからね。』

 心配の中に、どこかしら楽しそうな2人を見出したムネタカは驚きながらも安堵した。

「大丈夫そうですか?」

「まぁ、平気だろう。
 後宮にテントも張ってある。
 危なきゃ、駆け込めって言ってあるからな。
 テントに潜り込めば、誰であろうと手出しはできない。
 それでも、アイツらが逃げてる想像がつかないが。」

『双子は絶対ないよ!
 怖いもの知らずのパティもそうだけど、スコルも強敵が相手なら果敢に挑むよ。』

 そう言ったゼンにヒューゴは苦笑した。

「アイツ。
 肝っ玉が太いからな。」

 感情豊かなパティに比べて、普段冷静なスコルは相手がどんな目上だろうと、自分がコレぞと思えば言い迫る子供だった。
 そして何よりも剣士として常に向上心を持って成長しているのだ。

「そんな奴にキラキラした目で憧れられてみろ。
 こっちだって努力を怠るなんて真似できるわけないだろう?」

 そんなヒューゴの苦笑は照れ隠しだとムネタカは思った。

「じゃあ、任せますか?」

「そうしよう。」

 今尚、後宮の方から聞こえる爆発音に穏やかに耳を傾けたムネタカだった。


 
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