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旅路 〜グランヌス・王宮〜
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占い師セインとヨシノリ・アラキの出会いはグランヌスにとって最悪の結果をもたらす事になった。
セインを“姫巫女”と呼び始めたのもヨシノリ・アラキだった。
城下町に姫巫女の神がかった噂を流し、姫巫女と出会う人々が惚けるように従順になっていくのを、ほくそ笑んで見ていた。
ーーーこの女には治癒だけじゃなく、他の能力があるのやもしれないな。
使いこなすのが楽しみだ。
私の能力は人を使いこなす事だったのだ。
自分に酔いしれたヨシノリ・アラキは、止める周囲を無視して登城した。
姫巫女の存在を警戒し、威嚇していた国王が陥落した際には笑いが止まらなかった。
ーーー何と愚かで愉快な事だ。
私が国を手に入れたのも同じようなものだ。
国を手に入れた・・・手に入れた筈だった。
自分の部下であり腰巾着となったドナン・リューゲと朝から酒を煽っていた時だった。
ガルルゥゥギャァァァ!
グギャァァ!ヴァァァァ!!!
空気を切り裂くような雄叫びが聞こえたと思えば衛兵が屋敷に雪崩れ込むようにやって来たのだ。
「無礼者!
私を誰だと思っているのだ!
姫巫女様の養父であるぞ!!」
いつもであれば、皆これで頭を下げる筈だった。
「黙れっ!
反逆者め!!」
この日の衛兵は違っていた。
殴られ、すぐさまに拘束をされた。
時間も置かずに乱暴に引きずられていく。
ーーー何が起こっている?
先ほどの雄叫びは何だ?
理解の追いつかないヨシノリ・アラキは同じく拘束されたドナン・リューゲがブルブル震え怯えているのを見て、不安が押し寄せてきた。
「誰だ!
誰の命令だ!」
王宮にやって来てまで、去勢を張るヨシノリ・アラキの前に1人の男が現れた。
「我だ。
時が来るまで口を開くな。」
地面に這いつくばらされたヨシノリ・アラキは見下ろしてきた男・・・国王トウカ・ノブタカ・ショーグンに唖然とした。
よく知る国王・・・いや、目の前にいたのは姫巫女に陥落した愚か男ではなかった。
恐れていた国王が帰って来た。
そして、何を考えているか分からぬ声色で自分に口を開くなと脅してきていた。
ーーーなんだ?
何が起こっている。
ヨシノリ・アラキは再び乱暴に引きずられて離宮の庭に放り込まれると自分の置かれた状況が最悪な事を理解した。
自分とは違い理解できていない姫巫女を確認したヨシノリ・アラキは、その時の最善を選択した。
「王よ!お館様!
私は何も知りません!
私も、そこな女に騙されたのです!
国の破滅を目論む“魅了”の力とは何と恐ろしいのでしょう。」
ーーー何て私は運のない男なのだ。
不良品をつかまされた!
「よっ・・・養父様?」
己が生き残る為に不必要な物は切り捨てる。
それが、この国で生きる術だった。
「くっ来るなっ!
この、疫病神めっ!!」
ヨシノリ・アラキは縋り付く姫巫女を強引に突き飛ばした。
ーーーこれで良い。
貶めれても生き残れば良いのだ。
そんな男に王の声が降り注ぐ。
「もしだ・・・もし、お前が預かり知らぬ事だとして、それが何だ?」
「・・・えっ?」
男は顔を上げた事を後悔した。
王は怒りと悲しみを携えた顔でヨシノリ・アラキを見下ろしていた。
「だから何だと聞いているのだ。
お前がこの者を庇護し王城へ連れて来たのは多くの者が目にしている。
それだけでも国を混乱に貶めた一歩を踏んでいるではないか。
もう一度言おう。
知らぬから何だと言うのだ?
無知ならば無罪だとでも?
貴族の責任とは軽い物ではないぞ。」
ーーー終わった。
許されぬ現実を知った男は己の人生の終焉を知った。
______________
セインを“姫巫女”と呼び始めたのもヨシノリ・アラキだった。
城下町に姫巫女の神がかった噂を流し、姫巫女と出会う人々が惚けるように従順になっていくのを、ほくそ笑んで見ていた。
ーーーこの女には治癒だけじゃなく、他の能力があるのやもしれないな。
使いこなすのが楽しみだ。
私の能力は人を使いこなす事だったのだ。
自分に酔いしれたヨシノリ・アラキは、止める周囲を無視して登城した。
姫巫女の存在を警戒し、威嚇していた国王が陥落した際には笑いが止まらなかった。
ーーー何と愚かで愉快な事だ。
私が国を手に入れたのも同じようなものだ。
国を手に入れた・・・手に入れた筈だった。
自分の部下であり腰巾着となったドナン・リューゲと朝から酒を煽っていた時だった。
ガルルゥゥギャァァァ!
グギャァァ!ヴァァァァ!!!
空気を切り裂くような雄叫びが聞こえたと思えば衛兵が屋敷に雪崩れ込むようにやって来たのだ。
「無礼者!
私を誰だと思っているのだ!
姫巫女様の養父であるぞ!!」
いつもであれば、皆これで頭を下げる筈だった。
「黙れっ!
反逆者め!!」
この日の衛兵は違っていた。
殴られ、すぐさまに拘束をされた。
時間も置かずに乱暴に引きずられていく。
ーーー何が起こっている?
先ほどの雄叫びは何だ?
理解の追いつかないヨシノリ・アラキは同じく拘束されたドナン・リューゲがブルブル震え怯えているのを見て、不安が押し寄せてきた。
「誰だ!
誰の命令だ!」
王宮にやって来てまで、去勢を張るヨシノリ・アラキの前に1人の男が現れた。
「我だ。
時が来るまで口を開くな。」
地面に這いつくばらされたヨシノリ・アラキは見下ろしてきた男・・・国王トウカ・ノブタカ・ショーグンに唖然とした。
よく知る国王・・・いや、目の前にいたのは姫巫女に陥落した愚か男ではなかった。
恐れていた国王が帰って来た。
そして、何を考えているか分からぬ声色で自分に口を開くなと脅してきていた。
ーーーなんだ?
何が起こっている。
ヨシノリ・アラキは再び乱暴に引きずられて離宮の庭に放り込まれると自分の置かれた状況が最悪な事を理解した。
自分とは違い理解できていない姫巫女を確認したヨシノリ・アラキは、その時の最善を選択した。
「王よ!お館様!
私は何も知りません!
私も、そこな女に騙されたのです!
国の破滅を目論む“魅了”の力とは何と恐ろしいのでしょう。」
ーーー何て私は運のない男なのだ。
不良品をつかまされた!
「よっ・・・養父様?」
己が生き残る為に不必要な物は切り捨てる。
それが、この国で生きる術だった。
「くっ来るなっ!
この、疫病神めっ!!」
ヨシノリ・アラキは縋り付く姫巫女を強引に突き飛ばした。
ーーーこれで良い。
貶めれても生き残れば良いのだ。
そんな男に王の声が降り注ぐ。
「もしだ・・・もし、お前が預かり知らぬ事だとして、それが何だ?」
「・・・えっ?」
男は顔を上げた事を後悔した。
王は怒りと悲しみを携えた顔でヨシノリ・アラキを見下ろしていた。
「だから何だと聞いているのだ。
お前がこの者を庇護し王城へ連れて来たのは多くの者が目にしている。
それだけでも国を混乱に貶めた一歩を踏んでいるではないか。
もう一度言おう。
知らぬから何だと言うのだ?
無知ならば無罪だとでも?
貴族の責任とは軽い物ではないぞ。」
ーーー終わった。
許されぬ現実を知った男は己の人生の終焉を知った。
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