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旅路 〜グランヌス・王宮〜
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フェンリルの怒りを体現するような荒ぶる風が離宮を覆い尽くしていた。
ロクと共にやって来たヒューゴに気づき、ムネタカは自分達を守ってくれているシールドの存在を理解した。
「有難うございます。」
「いつゼンの怒りが暴発するかと心配していたんです。
準備は万全でしたよ。」
ちゃめっけにウィンクをするヒューゴにムネタカは苦笑した。
美しい純白のフェンリルは1人の青年を守ように囲い、凍てつくすような瞳を姫巫女に向けた。
「貴方は・・・誰?」
震える声を抑え問いかける姫巫女にゼンを撫でながらイオリは微笑む。
「しがない冒険者ですよ。」
宥めるイオリにゼンは甘える様に顔を擦り付けた。
そんなゼンの様子を見た姫巫女は恐れと怯えを超えたのか、恍惚な表情を浮かべてゼンを見上げた。
「美しい・・・。」
『触るなっ!』
震える手を伸ばし近寄って来る姫巫女に気づき、嫌悪するように威嚇したゼンの声が轟く。
「どうして?
怖くないわ。
私は神に愛され・・・。」
“神に愛された”
ムネタカや宰相だけでなく、帯同していた衛兵達は、姫巫女がこの言葉を言えば言うほどチープに聞こえる事に気づいていた。
それは自分達が恐れていた女が、力のない普通の女に見えた瞬間だった。
『お前が“神の愛し子”?
リュオン様の声が聞こえる?
嘘つき!!
僕は絶対神リュオン様より、今代の“神の愛し子”と共に生きる事を認められた神獣フェンリル。
神の子を騙り民を惑わす、お前の行いを許さない。
リュオン様を馬鹿にするな!!』
初めて“偽の神の愛し子”の存在を知ってから、これまで溜まっていた鬱憤を吐き出す様なゼンの咆哮に姫巫女が体を硬直させた。
「・・・何を言っているの?
私が“神の愛し子”よ?
神が、そう願うのなら、貴方は私の子という事でしょう?
さぁ、こちらへいらっしゃい。」
自分が特別である事を信じて疑わない姫巫女に周囲は困惑した。
「神獣を前にまだ言うのか?」
「可哀想になってきたッス。」
「愚かな・・・。」
ヒューゴ、ロク、宰相の溜息にムネタカは首を傾げた。
「あれは本気なのではないか?
本気で自分の事を“神の愛し子”であり、特別な存在だと思い込んでいるのでは・・・?」
ムネタカの見解に3人は視線を交わし首を傾げた。
「「「何で?」」」
「・・・誰かが、そう言ったから?」
ムネタカも徐々に自分の言葉に自信が無くなってきて、最後は疑問形だ。
今の姫巫女はゼンしか興味がない様だった。
怯えた動物を癒すような微笑みを浮かべ、動かぬ足の代わりに執拗に手を伸ばしている。
「もう、終わりにしましょう。
セインさん。」
名を呼ばれた姫巫女が虚空を見つめる目でイオリを見つめた。
それまで、事態を見守っていたイオリが話し始めた。
「残念ながら、これからは貴方の思うようにはなりません。」
「・・・何故?」
「ここは貴方の国ではありません。
グランヌスの人に返しましょう。
王様が誰よりも、そう願っていますよ。」
イオリはそう言うと、離宮の門に視線を向けた。
そこには国王・・・トウカ・ノブタカ・ショーグンが真っ直ぐと前を向き立っていた。
ロクと共にやって来たヒューゴに気づき、ムネタカは自分達を守ってくれているシールドの存在を理解した。
「有難うございます。」
「いつゼンの怒りが暴発するかと心配していたんです。
準備は万全でしたよ。」
ちゃめっけにウィンクをするヒューゴにムネタカは苦笑した。
美しい純白のフェンリルは1人の青年を守ように囲い、凍てつくすような瞳を姫巫女に向けた。
「貴方は・・・誰?」
震える声を抑え問いかける姫巫女にゼンを撫でながらイオリは微笑む。
「しがない冒険者ですよ。」
宥めるイオリにゼンは甘える様に顔を擦り付けた。
そんなゼンの様子を見た姫巫女は恐れと怯えを超えたのか、恍惚な表情を浮かべてゼンを見上げた。
「美しい・・・。」
『触るなっ!』
震える手を伸ばし近寄って来る姫巫女に気づき、嫌悪するように威嚇したゼンの声が轟く。
「どうして?
怖くないわ。
私は神に愛され・・・。」
“神に愛された”
ムネタカや宰相だけでなく、帯同していた衛兵達は、姫巫女がこの言葉を言えば言うほどチープに聞こえる事に気づいていた。
それは自分達が恐れていた女が、力のない普通の女に見えた瞬間だった。
『お前が“神の愛し子”?
リュオン様の声が聞こえる?
嘘つき!!
僕は絶対神リュオン様より、今代の“神の愛し子”と共に生きる事を認められた神獣フェンリル。
神の子を騙り民を惑わす、お前の行いを許さない。
リュオン様を馬鹿にするな!!』
初めて“偽の神の愛し子”の存在を知ってから、これまで溜まっていた鬱憤を吐き出す様なゼンの咆哮に姫巫女が体を硬直させた。
「・・・何を言っているの?
私が“神の愛し子”よ?
神が、そう願うのなら、貴方は私の子という事でしょう?
さぁ、こちらへいらっしゃい。」
自分が特別である事を信じて疑わない姫巫女に周囲は困惑した。
「神獣を前にまだ言うのか?」
「可哀想になってきたッス。」
「愚かな・・・。」
ヒューゴ、ロク、宰相の溜息にムネタカは首を傾げた。
「あれは本気なのではないか?
本気で自分の事を“神の愛し子”であり、特別な存在だと思い込んでいるのでは・・・?」
ムネタカの見解に3人は視線を交わし首を傾げた。
「「「何で?」」」
「・・・誰かが、そう言ったから?」
ムネタカも徐々に自分の言葉に自信が無くなってきて、最後は疑問形だ。
今の姫巫女はゼンしか興味がない様だった。
怯えた動物を癒すような微笑みを浮かべ、動かぬ足の代わりに執拗に手を伸ばしている。
「もう、終わりにしましょう。
セインさん。」
名を呼ばれた姫巫女が虚空を見つめる目でイオリを見つめた。
それまで、事態を見守っていたイオリが話し始めた。
「残念ながら、これからは貴方の思うようにはなりません。」
「・・・何故?」
「ここは貴方の国ではありません。
グランヌスの人に返しましょう。
王様が誰よりも、そう願っていますよ。」
イオリはそう言うと、離宮の門に視線を向けた。
そこには国王・・・トウカ・ノブタカ・ショーグンが真っ直ぐと前を向き立っていた。
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