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旅路 〜グランヌス・王宮〜
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胸を押さえ苦しみ、冷や汗をかいていたムネタカの顔色が戻ってきた。
「王子!!ムネタカ様!!」
宰相ケンショー・オオスギの慌てる声に、ムネタカは手を挙げて心配ないと頷いた。
「・・・今のは何です?
何故・・・?」
信じられないとムネタカをを見つめた姫巫女の顔が何処となく青ざめていた。
「俺の友達ですよ。」
給仕をしていた真っ黒な青年が楽しそうに笑い、唖然とする姫巫女を無視してムネタカに話しかけた。
「大丈夫ですか、ムネタカさん?」
「はい。
今のは?」
「ムネタカさんは“魅了”にかからないですが、彼女の力を一手に受けた反発で体に負担が起こったのでしょう。
大丈夫です。
貴方に異常はありませんよ。」
ムネタカの顔を覗いたイオリの青い目が煌めいていた。
王子が無事と聞き、安堵した宰相は姫巫女を睨みつけた。
「この後に及んで王子を害するとは・・・。」
無視された姫巫女は、それどころではなかった。
「“魅了”が効かない?
一体、どうして?
私の力は・・・。」
姫巫女の口から初めて“魅了”という言葉を引き出した真っ黒な青年は眉を下げた。
「稀有な力も決して万能ではありませんよ?
無理に欲望を叶えようとすれば、時には代償が付きます。
貴方の力は強力なのかもしれないけれど、この地の守護者にとっては大した物ではない様です。」
ーーー守護者。
何の事だか分からぬ姫巫女は椅子から立ち上がるとイオリと目を合わせた。
「私は“神“より寵愛を頂いた者。
人は私を“神の愛し子”と呼びます。
このグランヌスの地にて人々を救わんが為に働く私には“神”の言葉が聞こえるのです。」
言い切った姫巫女にイオリは微笑んだ。
「ご立派です。」
姫巫女は馬鹿にされていると、目の前の男に苛立ちを覚えた。
「人々は私を崇拝します。
国王も民と同じく私を敬うのです。」
尊大な物言いの姫巫女の裏で、イオリは盗み食いをする何処かの国の王を思い出し、王も民も同じという彼女の言葉に吹き出した。
「何故、笑うのです?」
イライラとしている姫巫女を見て、ムネタカと宰相は驚いていた。
彼らにとって姫巫女の気分の悪い笑みしか見た事がなかったからだ。
「いや、失礼。
神にとって王も民も同じ。
いや、同意します。」
「何故でしょう。
貴方が口を開けば、私の心が苛立ちに包まれていく。
・・・そう、貴方は汚れた心をお持ちなのね?」
汚れた心・・・姫巫女が、イオリにそう言った時、火の国グランヌスの空気が一気に冷え切った。
『“神の愛し子”を偽ったばかりか、イオリを侮辱したな・・・。
許さない。絶対に、許さない!!』
「キャー!!」
姫巫女が悲鳴を上げる中、王子や宰相はシールドのドームに囲まれていた。
離宮の庭園が強風に荒れ狂う様が現実の物とは思えぬ程だった。
この時の事を後の歴史学者達は宰相ケンショー・オオスギが残した報告書で、知る事が出来た。
《突如現れたそれは、白銀の毛に美しいサファイヤの目を持った大きな狼・・・いや、巨大なフェンリルだった。
神々たる姿を前に件の娘は怯えるように後退し、強烈な力の前に跪いた。
伝説と言わしめた純白のフェンリルが件の青年を守る姿は、それまで“神”を信じる心を失いかけた我らに真実とは何かを教えてくれたのだった。》
「王子!!ムネタカ様!!」
宰相ケンショー・オオスギの慌てる声に、ムネタカは手を挙げて心配ないと頷いた。
「・・・今のは何です?
何故・・・?」
信じられないとムネタカをを見つめた姫巫女の顔が何処となく青ざめていた。
「俺の友達ですよ。」
給仕をしていた真っ黒な青年が楽しそうに笑い、唖然とする姫巫女を無視してムネタカに話しかけた。
「大丈夫ですか、ムネタカさん?」
「はい。
今のは?」
「ムネタカさんは“魅了”にかからないですが、彼女の力を一手に受けた反発で体に負担が起こったのでしょう。
大丈夫です。
貴方に異常はありませんよ。」
ムネタカの顔を覗いたイオリの青い目が煌めいていた。
王子が無事と聞き、安堵した宰相は姫巫女を睨みつけた。
「この後に及んで王子を害するとは・・・。」
無視された姫巫女は、それどころではなかった。
「“魅了”が効かない?
一体、どうして?
私の力は・・・。」
姫巫女の口から初めて“魅了”という言葉を引き出した真っ黒な青年は眉を下げた。
「稀有な力も決して万能ではありませんよ?
無理に欲望を叶えようとすれば、時には代償が付きます。
貴方の力は強力なのかもしれないけれど、この地の守護者にとっては大した物ではない様です。」
ーーー守護者。
何の事だか分からぬ姫巫女は椅子から立ち上がるとイオリと目を合わせた。
「私は“神“より寵愛を頂いた者。
人は私を“神の愛し子”と呼びます。
このグランヌスの地にて人々を救わんが為に働く私には“神”の言葉が聞こえるのです。」
言い切った姫巫女にイオリは微笑んだ。
「ご立派です。」
姫巫女は馬鹿にされていると、目の前の男に苛立ちを覚えた。
「人々は私を崇拝します。
国王も民と同じく私を敬うのです。」
尊大な物言いの姫巫女の裏で、イオリは盗み食いをする何処かの国の王を思い出し、王も民も同じという彼女の言葉に吹き出した。
「何故、笑うのです?」
イライラとしている姫巫女を見て、ムネタカと宰相は驚いていた。
彼らにとって姫巫女の気分の悪い笑みしか見た事がなかったからだ。
「いや、失礼。
神にとって王も民も同じ。
いや、同意します。」
「何故でしょう。
貴方が口を開けば、私の心が苛立ちに包まれていく。
・・・そう、貴方は汚れた心をお持ちなのね?」
汚れた心・・・姫巫女が、イオリにそう言った時、火の国グランヌスの空気が一気に冷え切った。
『“神の愛し子”を偽ったばかりか、イオリを侮辱したな・・・。
許さない。絶対に、許さない!!』
「キャー!!」
姫巫女が悲鳴を上げる中、王子や宰相はシールドのドームに囲まれていた。
離宮の庭園が強風に荒れ狂う様が現実の物とは思えぬ程だった。
この時の事を後の歴史学者達は宰相ケンショー・オオスギが残した報告書で、知る事が出来た。
《突如現れたそれは、白銀の毛に美しいサファイヤの目を持った大きな狼・・・いや、巨大なフェンリルだった。
神々たる姿を前に件の娘は怯えるように後退し、強烈な力の前に跪いた。
伝説と言わしめた純白のフェンリルが件の青年を守る姿は、それまで“神”を信じる心を失いかけた我らに真実とは何かを教えてくれたのだった。》
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