上 下
601 / 781
旅路 〜グランヌス・王宮〜

609

しおりを挟む
 煌めく灯篭に照らされた離宮に現れた第一王子ムネタカは多くの衛兵を引き連れて門を潜った。

「離宮に、このような人数の衛兵を帯同させるなど、何て非常識なっ!」

 迎え出たオモトが怒っても、ムネタカは穏やかに微笑んだ。

「引き取らなければいけない者達が大勢いるでしょう?
 人手が入ります。」

 さも、『困ってるのは其方でしょう?』

 と、ばかりのムネタカに瞠目したオモトは、《最後に見た王子は、こんな人間だったか?》と訝しがった。

「大体、侍女風情が王子を前に何たる態度かッ!
 己の立場を弁えよ!」

 宰相ケンショー・オオスギの剣幕にビクつくとオモトは渋々と頭を下げた。

「失礼致しました。」

「大体、用があるのなら其方から参るのが道理であろう。
 一国の王子呼びつけておいて開口一番がコレとは、流石の離宮。
 無礼の根源であるな。」

 宰相の嫌味が止まらずにいるとムネタカがクスクスと笑った。

「宰相。
 許して差し上げてください。
 まだ、始まってもいないではないですか。」

「はっ。」

 恥辱というのを初めて知ったオモトは顔も上げずに道を開けた。

「姫巫女様がお待ちでございます。」

 ムネタカはオモトに声もかけずに歩みを進めた。

 常に賑やかな離宮の割に殺伐とした空気が拭いきれずにいる正面の庭園でムネタカはピタリと止まった。

「ここで良い。」

「はっ。」

 ムネタカの呟きに宰相は引き連れてきた侍従達に合図を送った。

「お待ちくださいっ。
 姫巫女様は中でお待ちです。
 どうぞ、奥へ。」

 慌てるオモトにムネタカは、一瞥もくれずに動く気配も見せなかった。
 代わりに口を開いたのは宰相だった。

「何が待っているか信じられるものか。
 こうして、王子自ら参られたのも全て国の為。
 王子は離宮の屋敷に足を踏み入れる事は拒否された。
 其方が話があると言うのなら、外に出て参れ。」

 戸惑うオモトは姫巫女の意向を聞いてくると、足早に屋敷に入って行った。

「さぁ、今の内に準備を。」

 宰相の指示に侍従達は持参したテーブルや椅子を並べた。
 飾りっ気のない簡素な茶会場が出来上がるとムネタカが椅子に座り、その後ろに宰相が立った。

「ムネタカ様ー。」

 準備が整ったのを見計ったように、軽やかな声が庭園に響き渡った。

「姫巫女様。
 危のう御座います。
 走ってはなりません。」
 
 花舞う様に飛び出てきた女の後ろからオモトが血相を変えて追随する。
 
 テーブルに着いた頃には、「ハァハァ。」と息を吐きながらも姫巫女は嬉しそうだった。

「お会いしとう御座いました。
 ムネタカ様。」

 頬を染めて見つめてくる姫巫女に立ち上がりもせずにいたムネタカは微笑んだ。

「お久しぶりですね。
 貴方とは親しくした覚えはありません。
 名ではなく敬称で呼びなさい。」

 庭園が静まり返った。

「あの・・・ムネタカ様?」

 戸惑う姫巫女に冷たい声が降り落ちた。

「王子のお言葉だ。
 無礼な態度を改めなさい。」

 宰相の凍てつくような視線にビクつくと姫巫女は困った様に周りを見渡した。
 誰も彼もが自分と視線を合わせてくれない。

「姫巫女様。
 お座り下さい。」

 オモトに促されて「ええ。」と小さく返事をすると、姫巫女はムネタカの前に座るのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

結婚して5年、初めて口を利きました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:40

学校で癇癪をおこしてしまい逮捕されてしまう男の子

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:0

ピクン、ピクン、あん…っ♡

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:43

オレはスキル【殺虫スプレー】で虫系モンスターを相手に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,096pt お気に入り:642

支配者達の遊戯

BL / 連載中 24h.ポイント:298pt お気に入り:862

よく効くお薬

BL / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:1,482

獅子王は敗戦国の羊を寵愛する

BL / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:207

鑑定や亜空間倉庫がチートと言われてるけど、それだけで異世界は生きていけるのか

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:4,842

処理中です...