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旅路 〜グランヌス・王宮〜

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「早く、割れっ!」

「嫌で御座います。」

 いつ兵士が雪崩れ込んでくるやも知れぬ中、ツユクサの焦りは上昇していく。
 それに比例するようにオモトの抵抗も激しさを増した。

「離宮を爆破など、ツユクサ様は気が触れているのですか?
 未だ目覚めぬ姫巫女様に、どんな危害があるやも知れぬのですよ?!」

 オモトは必死だった。
 姫巫女が眠りにつき、縋っていた貴族達の不安が膨れ上がる中、統制を取っていたのはツユクサだった。
 いくら苦手と言っても、ツユクサの手腕は誰にも真似出来ぬと尊敬しながらも畏怖していた。
 それもこれも、姫巫女の為・・・姫巫女が救うグランヌスの為だと信じていた。

「姫巫女様なら、“神のご寵愛”の力で大丈夫だ。」

 そう話すツユクサの言葉に今までであれば納得していた。
 しかし、オモトには、それが嘘であると感じてしまった。

「・・・“神のご寵愛”。」

「そうだ。
 爆破しても、姫巫女様は無事だ。」

「ならば・・・ならば、なぜ“神”は姫巫女様をお目覚めになさらないのです!
 この離宮を御守りくださらないのです!」

 ジリジリと下がるオモトにツユクサは明らかに苛立っていた。

・・・。」

 ツユクサが纏う影が膨れ上がり、誰の目にも見えるまでになった。

「キャアアア!!」

 禍々しい影を前にオモトは悲鳴を上げ逃げ出すが、足が思うように動かずに絡まってしまう。

「ツユクサ様、お気を確かに・・・姫巫女様・・・お助けください。」

 必死に逃げ惑うオモトにツユクサの手が伸びていく。

「言う事も聞けぬ愚かな家畜よ。
 役にも立たぬのなら、お前も・・・」

 ただ1人、抗う術もなく怯えるオモトは自分が敬愛するの復活を祈る中、闇が己を覆い尽くすと諦めたように瞳を閉じた。

ザシュッ!!

「ギャァァァ!!」

 オモトの叫び声が響いていく。
 血を流した手を押さえる女をツユクサは怪訝な顔で見下ろした。

「・・・何を?」

 、目の前の女は痛みで踞っていた。
 僅かな気配に思わず振り返ると、小男が塀を乗り越えるところだった。

 ハッとしたツユクサは背負っていた影の力も忘れ、オモトが痛みに耐え押さえる手を乱暴に引っ張り出した。

 すると確実にあったはずの指輪が持ち去られていたのだ。

「・・・何やつだ。
 待て・・・待てぇぇ。」

 躍起になって、小男を追いかけるツユクサに強烈な衝撃が走った。

 肩に腹に、最後に脳天を凄まじい痛みが走っていく。

「グハァッ!」

 これは何だと、考える間もなく意識が薄れていくのを、ツユクサは悔しそうに顔を歪めていった。

________

「危なっ!」

 全てを見ていたロクは、スナイパーライフルから目を放したイオリと、合流した小男・・・猿の獣人ホワンを信じられない思いで見つめるのだった。
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