続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路 〜グランヌス・王宮〜

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 フラフラと右往左往する女をイオリ達は塀の上から観察していた。

「・・・ツユクサ。」

 何度も煮湯を飲まされた筆頭侍女を目にしたロクの顔が厳しくなっていく。

《アレがツユクサか・・・。》

 呟いたロクをチラリと見ると、イオリは彷徨う女に視線を戻す。

「・・・何だが、良くないな。」

 女が背に纏う黒い影が濃くなっていくのを確認したイオリは再びスナイパーライフルを構えた。

「何だ?」

「分かりません。
 良くない気配がします。」

 イオリの反応に警戒すると、ヒューゴは周囲に目を配った。

 そこに、もう1人の女が現れた。
 
「オモトです。」

 ロクがすかさずに囁いた。
 ムネタカやウサギの獣人の少女コーラルの話に出てきた侍女の登場にイオリ達の神経が昂った。

 すると、3人が見つめる先で、次第に2人の女が揉み合いを始めるのが見えたのだった。
  
___________


「やめよ・・・やめよっ!!」

 目の前で人が倒れていくのを前に筆頭侍女であるツユクサは弱々しい叫びを繰り返していた。

 貴族達だけじゃない。
 離宮付きの侍女や衛兵までもが意識を失っていく様は確かに異常であり、余計に女の恐怖を煽ったのかもしれない。

 錯乱状態のツユクサは叫びながらも足を止める事なく彷徨い続けた。

「・・・神の・・怒・り・・・。」

 意識を失い倒れゆく貴族の誰かの小さな呟きが、必要以上にツユクサの耳に届いた。

「だっ・・黙れ・・・黙れぇ!!」

 ツユクサは目を覚まさぬ貴族達に怒鳴り散らした。

「姫巫女様は“神に愛されし”御方!
 尊いのじゃっ!!
 神の怒りなど、あろうはずもない!
 愚か者は、誰じゃ!名乗りをあげよ!」

 誰しもが目覚めぬ中、ツユクサの叫び声だけが響き渡る。

ゴトッ

 突然の物音に、ビクリと振り返ったツユクサが目にしたのは、頭を押さえながら、やって来たオモトの姿だった。

「・・・其方。
 無事であったのか。」

 オモトの出現により、落ち着きを取り戻したツユクサは周囲を見渡した。

 集まった人々が乱雑に倒れる地獄絵図の中に、香炉が割れているのが見えた。
 香炉の存在価値を理解していたツユクサの顔が歪む。

「何が起こった。
 何者が何をした。
 余計な事を・・・。」

 悔しそうに爪を噛むツユクサに、倒れる貴族達への気遣いなど皆無だった。

「ツユクサ様・・・。」

 歩みは進めても、何処となくフラついているオモトを煩わしげに見つめるとツユクサに1つの考えが浮かんできた。

「オモトよ。
 先程授けた指輪の魔石を叩き割れ。」

「・・・えっ?
 しかし、有事の際に使えと・・・。」

「見て分からぬのか愚か者!
 今が有事の時であろう。」

「ならば姫巫女様も・・・。」

 指輪を使えば、瞬時に移動出来ると聞いていたオモトは危険な場所から姫巫女を移動しようと考えた。

「馬鹿者っ!
 良いから割るのだ!」

 焦り般若の顔になっているツユクサに、不安を覚えたオモトは自分の手に収まった指輪を握りしめ首を横に振った。

「ツユクサ様、逃げるのでしたら姫巫女様も共に。」

 怯えるオモトにツユクサは舌打ちをした。

「使えぬ戯けが。
 表には第1王子が寄越した兵士がいるのだぞ。
 この事態を収めるために、庭園を爆破するのだ。
 それは、全てを無に返す破壊の力を持った指輪じゃ。」

「・・・爆破?無に返す?」

 そんな恐ろしいものを手にしていたと知らずにいたオモトは震え出した。

「さっさと割らぬか!」

「・・・嫌で御座います。」

「・・・役立たずが。」

 ついぞ、2人の女の揉み合いが始まった。


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