続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路 〜グランヌス・王宮〜

600 〜記念〜 一方、その頃①

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「これは、ギロック伯爵。」

 声を掛けられたイルツクの領主アナスタシア・ギロックは、反対側からやって来た若き貴族に微笑んだ。

「お久しぶりでございます。
 ダグスク侯爵様。」

 2人の領主が会ったのは、アースガイル王が君臨する首都マテオールの王城の廊下だった。

「先日は我が領の塩を大量に購入していただき有難う御座いました。」

 柔和なオーウェン・ダグスクにアナスタシアと後に控えていた夫であり騎士団長のディエゴ・ギロックは微笑んだ。

「昨今、我が領ではポップコーンなる菓子が軌道に乗ってまいりまして、味には塩が決め手なのです。
 ダグスクの品質の良い塩は人気なのですよ。
 奥様はお元気でいらっしゃいますか?
 ご結婚されて何年になりました?」

「3年です。お陰様で妻も元気にしております。
 まだ、娘が小さいものですから、今回は私だけの登城となりました。」

 父の顔で微笑むオーウェンにアナスタシアも釣られるように笑みを浮かべた。
 
 2人が連れ立って大広間に向かうと、各地より集められた領主が大勢集まり賑わしかった。

「やはり、今回の招集は只事ではないようですね。」

 夫と別れ、領主の1人として出席したアナスタシアは不安気に眉を顰めた。

「そうですね。国の領を預かるもの達が一斉に集められたのです。
 何か大事が起きているのでしょう。」

 先程までの柔和を隠したオーウェンは辺りを見渡した。
 そこに1人の少年が居場所がないようにキョロキョロと視線を彷徨わせているのが見えた。

「・・・あれは。」
 
 オーウェンはアナスタシアを促し、共だって心細そうに立っている少年に近寄った。

「失礼。
 もしや、オンリール伯爵では?」

「はっ、はい。
 クロワ・オンリールと申します。」
 
 オーウェンはオンリールの名を聞き、1人寂しく周りに相手にされていなかった少年に納得し、また同情した。

「私はオーウェン・ダグスク。
 先の事件ではオンリール伯爵家におかれては、お気の毒な事でした。
 私も若くして爵位を継いだ身です。
 大変な事も多いかと思いますが、困った事があった際は声を掛けてください。」

「ダグスク侯爵様っ!
 ありがとうございます。」

 突然、高位の貴族に声を掛けられて、少年貴族は焦ったように頭を下げた。

「私はアナスタシア・ギロックと申します。
 伯爵位を賜り、イルツク領を任されております。
 先代のアマンド様には御恩があります。
 どうぞ、私もお頼り下さい。」

「イルツク伯爵・・・ご親切に有難うございます。」

 美しい女伯爵の笑顔にクロワは恥ずかしそうに返事をした。
 不幸のあったオンリール伯爵家の最後の後継者であったクロワ・オンリールが母と共に領地に戻ってきて、まだ日が浅い。
 周りの貴族達は、この数年のオンリールに迷惑を掛けられた者も多く、少年貴族を排除こそしないが、遠巻きに見ているに過ぎなかった。
 
「あの、祖父と母よりポーレット公爵様にはご挨拶をするようにと言われてきたのですが・・・。」

 針の筵になる覚悟はあっても、人に囲まれている王弟公爵の元に行く勇気はなかったようだ。

「私もご挨拶に参るのです。
 ご一緒しましょう。」

「えぇ、私も。」

 心強い大人を味方につけた少年貴族は恐々と2人の後に続いた。
 
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