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旅路 〜グランヌス・王宮〜
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しおりを挟むーーー情報漏洩を恐れるよりも利用しましょう。
ムネタカはイオリの言った言葉の意味を考えてきた。
現在、彼がいるのは王の執務室で、周囲を多くの衛兵や隠密が護衛の為に集まっていた。
「イオリさんは何をしようとしているんだろう。」
そう自然と呟いたムネタカの肩をポンっとスコルが叩いた。
「イオリは狩りをしてるんだよ。」
「狩り?」
それには、ムネタカだけではなく、共にいた宰相であるケンショー・オオスギまでもが首を傾げた。
「狩りの基本は“忍び猟”。
イオリみたいに単独て狩猟に出る場合は、獲物に気づかれずに近づいて狙いを定めるってやり方が一般的。」
スコルが話し出すと他の子供達もテーブルを囲んで、にこやかに聞いた。
「他にも、獲物が通りそうな場所に罠を仕掛けるって方法もあるけど、この場合は時間が掛かる。
獲物達も、そうバカじゃないからね。」
大人びたように頷くスコルにムネタカと宰相は顔を見合わせた。
「あとは、ワザと音を立てて獲物の気を引くっていう方法がある。」
「ワザと音を立てる?」
火の国の男として遠征にも参加するムネタカは自然の中では目立ってはいけないと教わってきた。
「“忍び猟”ってさ、音を立てないように、ゆっくり動くんだよ。
それって、捜索や追跡の行動範囲が狭まるって事。
まぁ、イオリみたいに熟練になるとお構いなしで森を駆け巡ってるけどね。」
スコルがイオリの異常さに肩を竦めると、子供達がクスクスと笑った。
「音を立てるって事は獲物が逃げ出すでしょう?
そうやって、至る所で音を立てて最終的に獲物を一箇所に追い詰めるんだよ。
このやり方は人数が多ければ多いほど効果的。
多分だけど、イオリはコッチをやろうとしてるんだ。」
身を隠して相手の出方を見るのが“忍び猟”だとすると、イオリは最短で相手を揺さぶろうとしているという事だ。
「覚えていた方が良いよ。
イオリってのんびりしてそうに見えるけど、意外とせっかちなんだ。
獲物の都合に合わせるなんて、悠長な事はしない。」
スコルの言っている事に目を丸くした2人は、したり顔で頷く他の子供達を見渡した。
「イオリが狩りに行ってくるって言って、数分後にロックバードを引きずりながら帰って来た事があったよね。」
楽しそうに話すニナに続くようにパティが手を上げてピョンピョンと飛んだ。
「敵と味方が真剣な言い合いをしている最中に空気を読まずに敵の眉間に銃を打ち込んだ事もあったよ。」
思い出したように笑うパティに続いてナギが可笑しそうに体を揺らした。
「その時だって『ダメでした?』
ってキョトンとしてた。
事件が解決するタイミングを逃さないのは凄いけど、周りはビックリしちゃうよね。」
今まさに、ムネタカ達は敵に対し一手を打ったばかりだった。
にも関わらず、子供達はすでに事件は終わったかのように陽気に笑っている。
「ムネタカ達はさ。
本当の“神の愛し子”の事を知らないんだよ。」
再びスコルが大人びた顔で片眉を上げた。
「“神の愛し子”って、慈愛を押し売りする人じゃないよ。
その対価に愛を欲しがったり、物を欲しがったりする人でもない。」
それは、ムネタカ達の知っている姫巫女の事だった。
「本当の“神の愛し子”はさ。
自分勝手なんだよ。
したい事をして、やりたい事をやる。
結局、それが人の為になっていようがお構いなし。」
スコルは腰に手を当てて困ったように溜息を吐いた。
「でも、だからこそ。
イオリに助けられた人は、イオリの事を好きになるのかもね。」
ーーーあぁ、それは分かる。
ムネタカは人懐っこい顔で微笑むイオリに、どれだけ助けられていたか思い出していた。
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