583 / 781
旅路 〜グランヌス・王宮〜
591
しおりを挟む
その日、王宮に噂話が駆け巡った。
下働きから、登城していた貴族まで耳に入った者達の心情を揺さぶるには十分だった。
「えっ!
それじゃ、離宮はどうなるの?」
「分からないわ・・・。
本殿の方の侍女から情報を得てるんだけど・・・。」
当然、噂は離宮にも届き、仕事の合間にて数人の侍女達が声を小さく話し合っていた。
「これ。
其方ら、何の話をしておるのだ?」
そこに、上級侍女であるオモトが現れ、小耳に入った内容が気に入らず眉間に皺を寄せて詰問した。
「あっ・・・いいえ。
あの。」
「本殿より噂話が聞こえて参りまして・・・。」
「もうせ。」
冷たい目で見下ろされ、怯える侍女の気持ちなどお構いなしにオモトは命令した。
「第1王子の帰還により、王太子として病に伏せられた王の代わりに内政を司る事になられたとか・・・。」
口重かった侍女の話の内容にオモトは眉をピクリと動かした。
「何を申しておる。
第1王子の帰還?
王子こそが病に伏せられ部屋に閉じこもっておいでではないか。」
オモトとて第1王子の出奔は初耳であった。
そもそも王宮からの正式な発表は病にて表に立てなくなったとされているはずで、王妃までもが気が触れたと聞いた時には姫巫女様を邪険にする罰だと鼻で笑っていたのだ。
「・・・はい。
何やら、他国へ渡り協力を取り付けたそうで・・・。」
「協力?
何の協力と申すのだ・・・。」
オモトの内心はモヤモヤとした不快に包まれていた。
「それが・・・そのう・・。」
顔色悪くした侍女達に苛立ちを見せたオモトは、ドンっと足を踏み鳴らした。
「ハッキリと申せ!!」
「はっ・・・はい!
姫巫女様を邪教の主と公言なさり、直ちにグランヌスより打ち払うおつもりとか・・・。
いつ、離宮が兵士に囲まれるやもしれぬと、噂が駆け巡っております。」
「なんと、罰当たりな・・・。」
ワナワナと震えたオモトは、顔色が土色の化した侍女達に固く口止めをし、怒りを纏い姫巫女の寝所に足早に向かった。
「ツユクサ様!」
今だに目覚めぬ姫巫女に付き添う筆頭侍女の名を呼びながら中に入ったオモトは不安の色を隠せていなかった。
「騒がしい・・・。」
横たわる姫巫女から視線を動かすことのないツユクサにオモトは恐る恐る近づいて行った。
「王宮に流れる噂をご存知ですか?」
「噂?」
「第1王子の帰還により、王子が内政を取り仕切る事になると・・・。
この離宮に、そのような報告はございません。」
ーーー遺憾です。
不快感を隠さないオモトをチラリと見るやツユクサは笑った。
「本当に、脆弱で愚かな者達だ・・・。
ところで、後宮の様子はどうだ?」
「・・・?
後宮の報告は上がってきておりません。」
「・・・それは、誠か?」
ツユクサの真意がわからぬオモトは小さく頷いた。
「やはり、アレも使えぬ猿であったか・・・。」
これまでも、そこはかとなく恐怖を感じていたオモトも、今のツユクサに蔓延るオーラに唯ならぬ物を感じた。
姫巫女を崇拝するオモトにとって、その腹心であるツユクサの存在は心理的に重かった。
目覚めぬ姫巫女に不安を感じているのは同じであろうと、気遣うオモトに向ける視線が日に日に厳しくなっているのも事実だった。
「第1王子・・・ムネタカ。
好きにさせてなるものか。」
ツユクサの呪いの籠もった呟きに誰よりも震えるオモトであった。
下働きから、登城していた貴族まで耳に入った者達の心情を揺さぶるには十分だった。
「えっ!
それじゃ、離宮はどうなるの?」
「分からないわ・・・。
本殿の方の侍女から情報を得てるんだけど・・・。」
当然、噂は離宮にも届き、仕事の合間にて数人の侍女達が声を小さく話し合っていた。
「これ。
其方ら、何の話をしておるのだ?」
そこに、上級侍女であるオモトが現れ、小耳に入った内容が気に入らず眉間に皺を寄せて詰問した。
「あっ・・・いいえ。
あの。」
「本殿より噂話が聞こえて参りまして・・・。」
「もうせ。」
冷たい目で見下ろされ、怯える侍女の気持ちなどお構いなしにオモトは命令した。
「第1王子の帰還により、王太子として病に伏せられた王の代わりに内政を司る事になられたとか・・・。」
口重かった侍女の話の内容にオモトは眉をピクリと動かした。
「何を申しておる。
第1王子の帰還?
王子こそが病に伏せられ部屋に閉じこもっておいでではないか。」
オモトとて第1王子の出奔は初耳であった。
そもそも王宮からの正式な発表は病にて表に立てなくなったとされているはずで、王妃までもが気が触れたと聞いた時には姫巫女様を邪険にする罰だと鼻で笑っていたのだ。
「・・・はい。
何やら、他国へ渡り協力を取り付けたそうで・・・。」
「協力?
何の協力と申すのだ・・・。」
オモトの内心はモヤモヤとした不快に包まれていた。
「それが・・・そのう・・。」
顔色悪くした侍女達に苛立ちを見せたオモトは、ドンっと足を踏み鳴らした。
「ハッキリと申せ!!」
「はっ・・・はい!
姫巫女様を邪教の主と公言なさり、直ちにグランヌスより打ち払うおつもりとか・・・。
いつ、離宮が兵士に囲まれるやもしれぬと、噂が駆け巡っております。」
「なんと、罰当たりな・・・。」
ワナワナと震えたオモトは、顔色が土色の化した侍女達に固く口止めをし、怒りを纏い姫巫女の寝所に足早に向かった。
「ツユクサ様!」
今だに目覚めぬ姫巫女に付き添う筆頭侍女の名を呼びながら中に入ったオモトは不安の色を隠せていなかった。
「騒がしい・・・。」
横たわる姫巫女から視線を動かすことのないツユクサにオモトは恐る恐る近づいて行った。
「王宮に流れる噂をご存知ですか?」
「噂?」
「第1王子の帰還により、王子が内政を取り仕切る事になると・・・。
この離宮に、そのような報告はございません。」
ーーー遺憾です。
不快感を隠さないオモトをチラリと見るやツユクサは笑った。
「本当に、脆弱で愚かな者達だ・・・。
ところで、後宮の様子はどうだ?」
「・・・?
後宮の報告は上がってきておりません。」
「・・・それは、誠か?」
ツユクサの真意がわからぬオモトは小さく頷いた。
「やはり、アレも使えぬ猿であったか・・・。」
これまでも、そこはかとなく恐怖を感じていたオモトも、今のツユクサに蔓延るオーラに唯ならぬ物を感じた。
姫巫女を崇拝するオモトにとって、その腹心であるツユクサの存在は心理的に重かった。
目覚めぬ姫巫女に不安を感じているのは同じであろうと、気遣うオモトに向ける視線が日に日に厳しくなっているのも事実だった。
「第1王子・・・ムネタカ。
好きにさせてなるものか。」
ツユクサの呪いの籠もった呟きに誰よりも震えるオモトであった。
応援ありがとうございます!
174
お気に入りに追加
9,852
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる